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なつねぇ落語

こちらのなつねぇさん、去年ちょいと大きな手術をしたんだそうで。
なんでも開頭手術、頭蓋骨にゴリゴリ穴あける手術だったってんだから驚いたね。
てっきりね、このなつねぇが「手術」ったらね、めでたく「そういう手術」だと思うじゃない?
そうでしょ?みなさんも。アタシだってそう思った。まだ実際に会ったこともなかった、そんなころでしたけどね。
ちょうどそんなタイミングでね、ちょっとしたニュースが新聞に載りましてね、魚屋の勝五郎の家ではこんなやりとりがあったんですよって、そんな噺なんですけどね。

おかみさん「ちょっとちょっと、あんた。新聞に浜松のニュースが載ってるわよ。これ、なつねぇのことなんじゃない?」
勝五郎「なんだい。おまんまができましたってそういう話じゃないのかい。こっちはね、店閉めてね、クタクタに疲れて帰ってきて、さあおまんまだって楽しみにしてんの。だいたいね、あのね、お前ね、浜松のニュースったら全部なつねぇのニュースってわけないだろ?だいたいなつねぇはこないだ入院して手術したってんだから。そんなニュースになることができるほどの元気はないだろう。どんなことが書いてあるんだ。ちょっと読んでみろよ」
お「えっとね、えーっと。浜松の海岸で謎の玉がみつかるだって。」
勝「なに?海岸に?玉が落ちてた?浜松の?玉が海岸に?いやいや、お前、そりゃあなつねぇだよ…。そうかぁ。なんの手術かは聞いてなかったけど、そういうことか。いやぁ、こりゃお祝いを持っていかなきゃな。続きを読んでくれ」
お「えっと、落ちていた球体は鉄球と思われる、だって」
勝「なに!なんだって?鉄球?鉄なの?うーん。じゃあなつねぇじゃないな。アイアンじゃなくてゴールドのはずだからな。ほんとに鉄球なの?金玉じゃなくて?」
お「鉄球と思われるって書いてあるけど。まだわからないんじゃない?なんにせよ、このタイミングで浜松の海岸に玉が落ちてるなんてやっぱりなつねぇなんじゃないかしら」
勝「う〜ん。たしかに出来すぎたタイミングではあるよな。浜松の海岸に玉だもんな。やっぱりなつねぇかもしれないな。ちょっと続き読んでくれよ。」
お「えーっとね、浜松の海岸に鉄球と思われる玉が一つ落ちていた、だって。」
勝「なに?一つ?二つじゃなくて?一つ?一つなの?うーん。じゃあ、なつねぇじゃないな。いくらなんでも一つだけ、二つじゃなくて一つだけ取るってことは考えられませんよ。こうね、同じ大きさの玉が二つ並んでいるからバランスってもんがとれるんでね。それが一つだったらね、歩いてたってだんだんこう、重たい方に曲がって行っちゃうよ。そんなね、一つだけ取るなんてそんなことはね、考えられない。こりゃね、なつねぇじゃないよ。そのニュースは」
お「でもアンタ、海岸に落ちてたのよ?一つは波に流されちゃったのかもしれないじゃない。だいたいね、このタイミングで浜松の海岸に玉が落ちてるなんて、そんな偶然あるかしら。」
勝「う〜ん。そうなんだよなぁ。たしかに。二つ取ったけど、一つは波打ち際に落っことしちゃったのかもしれないな。それで、もう一つがこうして見つかった、と。やっぱりなつねぇかもしれねぇなぁ。ちょっと続き読んでくれよ」
お「えっとね、見つかった玉は直径が1.5メートル」
勝「なに⁈1.5メートル⁈1.5センチじゃなくて?いやいやいやいや。そりゃお前、なつねぇじゃないよ。さすがに。いやね、会ったことはないけどね、たしかにけっこう大きい人らしいんだよ。オレなんかよりも背も高いらしいんだよ。それでもね、1.5メートルの玉をね、こう、脚の間にぶら下げてね、しかもね、二つだよ?二つこう、1.5メートルをぶら下げてね、ウクレレ弾きながら歌うなんて、そんなことできるか?無理だろ〜。そりゃ」
お「でもアンタ、海岸で見つかったってことはさ、しばらくの間おてんと様の光を浴びていたってことじゃない?そのあいだにぐんぐん成長したのかもしれないじゃない」
勝「なに?おてんと様に当てると成長する?そんなことあるかよ」
お「でもアンタ、裏に蒔いておいたヘチマの種、芽を出してぐんぐん伸びて、こーんなに大きな実がなったのよ。アンタのもね、そんなとこにいつもしまっておいて、おてんと様に当てたことなんてないじゃない。わからないわよ。だいたいね、このタイミングで浜松の海岸に玉が落ちてるなんて…」
勝「いやいや、わかった。うん。確かに大きくなるのかもしれない。おてんと様に当てるとかやったことないけど。やったことないことを頭ごなしに否定したらいけないな。うん。そんで、続きは?まだなにか書いてある?」
お「えっとね、重さは300キロ」
勝「さ、300キロ⁉︎300キロ⁈300グラムじゃなくて?いやいやいやいや。そしたら二つで600キロですよ⁈あのね、大きいと言われたサラブレッドのヒシアケボノだって560キロですよ⁈あのね、脚の間にヒシアケボノより重いのがぶらさがるなんてある?ぶらさがる?もうそれ言わば乗馬じゃない。乗馬しながらウクレレ持って歌ってんのかいなつねぇは。どんな芸風だよ。ありえませんよ。」
お「でもアンタ、このタイミングで浜松の…」
勝「わかったわかった。続き。続き読んでくれよ」
お「えっとね、表面にはフジツボが付着しているだって」
勝「フジツボ!あのね、フジツボビッシリの玉をこんなとこにぶら下げてたら内股血だらけになるよ。歌いながら足でリズム取ったりしたらね、考えるだけで恐ろしい事態よ」
お「でもアンタ、このタイミングで…」
勝「はい。わかりました。もう最後まで読んでくれよ」
お「警察は、爆発の恐れがあるとして周囲を立ち入り禁止にしただって」
勝「爆発⁈爆発すんのこれ⁉︎オレのも⁈爆発⁈金玉が爆発するって⁈警察がそう言ってんの⁈」
お「最後読めって言ったんだから最後までお聞きよ。えっと、専門家はブイではないかと話している、だってさ。」
勝「ブイ?金玉じゃなくて?なんだよ。結局なつねぇ関係ないじゃねえか。まったく。お前も人騒がせだな。まったく。さ、おまんまにするぞ。」
お「おかずはもって帰ってくれたのかい?」
勝「あぁ、遠州灘でとれたブリの白子だ」

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