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Senza rivolte smariscerà!(戦うこと無くしては消え失せてしまう:コルシカ語、カライム語、アイヌ語)

最近、こんな音楽を見つけた。

"U popolu corsu campa di stond'amare
D'i nostr'antenati a lingua si more
L'usu nustrale di campà
Senza rivolte smariscerà"

コルシカ人は辛い時代を生きている
我等の先祖の言葉が死にかけている
生き残るための道は
戦うこと無くしては消え失せてしまうのだ
(動画より抜粋)

コルシカ語が訴える、このような状態は残念なことに世界の少数言語において珍しいことではない。

最近、「グローバル・ボイス」のエスペラント語版にリトアニアのトラカイで話されているカライム語という少数言語の記事が出た。それを読んで「やはりカライムも同じか」と言う気持ちになった。

カライム語は情報リソースが限られており、日本からではなかなか現状を知ることは難しい。文献で名前を見ることはできるが、実際のカライム語を聞いたり、カライム語の知識がある現地人とも交流することは難しい。

カライム語はリトアニアで話されるテュルク系の言語だ。しかもテュルク系の言語であるのもかかわらず、話者はユダヤ人なのである。

ロムアルド・チャプロツキー(Romuald Čaprockij)によれば、2002年から6月あるいは7月にトラカイでカライム語の言語と文化の林間学校が開校されるようになったらしいが、目立った成果は出ていないようだ。彼の言葉によれば、言語を教える教材や教育メソドなどが欠けており、カライム語の発展と保護の成果は目に見えない状態になっているとのこと。

チャプロツキー氏が知っているカライム語の話者はリトアニア国内で二〇人ちょっとの上、コミュニティー内で言語の状態について議論もないし、誰かが言語の保護のために活動しているわけでもないと言う。その一方で言語活動の成果が少しづつ出ている。

一九九六年にはミコラス・フィルコヴィチウス(Mikolas Firkovičius)により教科書が一冊出版された(そして彼は二〇〇〇年に亡くなったようだ)(1)。また少し前にはサン=テグジュペリのカライム語版『星の王子さま』が出版されている(Kiči Bijčiek)。

インターネット上ではほそぼそとカライム語の歌などがアップロードされている。下記はおそらくポーランド語の正書法に従っているのかもしれないが、『トラカイの街で』というタイトルのように思える。

しかし、気になる点が一つあり、断言できない。テュルク系の言語には被修飾語にマーカーがあわれるのが特徴の一つだ。例えばトルコ語では:

Trakai şehirinde

...となると考えられる。ここではşehirをTrakaiが形容していると思われるので、şehirにマーカーの"i"がつき関係性を表している。そして、トルコ語ではその後にマーカーと格の接尾辞が直接つかないよう"n"が介在してくる。ただし、介在子音の点についてはウズベク語のように"n"がつかないテュルク語もあるので、まあ納得はできる。

ここで推測になるのだが、カライム語はアイヌ語と似たような状況にあるのではないか?

先天的な話者がほとんどおらず、後天的な話者を育てるために言語資材(コーパスなど)が豊富に残っている有力な方言(例えばトラカイ方言)を「カライム語」として取り出して、出身地やその出身地のカライム語を無視して、ポーランドやリトアニア、イスラエルからやってきたカライムの子孫にトラカイ方言を教える。

そうなってくるとアイヌ語の沙流方言のように、いつの間にか沙流のアイヌ語が標準となり、他のアイヌ語を覆ってしまうのではないか。それは果たして先祖代々や伝統という言葉で語ってしまっていい現象なのか、アイヌ語の多様性はどうなるのか、そしてそもそも言語の運命は誰が決めていいものか、様々な問題に直面するだろう。そして、それは外部の人が手を差し伸べていいものなのか...。

民族語の交換が起きてしまい、言葉を忘れた少数民族は自分たちの手ですら、自らの民族語の運命にどう対処すべきか困惑することも多いだろう。しかし、コルシカの歌にもあるように、言葉に関して決定的なことがある:

L'usu nustrale di campà
Senza rivolte smariscerà"

生き残るための道は
戦うこと無くしては消え失せてしまうのだ

(1)http://www.voruta.lt/mykolui-firkoviciui-1924-2000-atminti/

Photo 109387042 © Andrius Aleksandravicius | Dreamstime.com


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