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オハナシオキバ

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🐍日食サロス116番の旅 68/70(8)

サビアンのまとめ ----------------------- ヘリオセントリック  冥王星 ♋26: Contentment and happiness in luxury, people reading on davenports. [豪華さに満足と幸せを感じ、長机の上で読書をする人々]  海王星 ♍14: A family tree. [家系図]  天王星 ♉3: Step up to a lawn blooming with clover. [クローバーが咲いて

🐍月食サロス128番の旅 36/71(11)(Sabian Story)

*** この家は定期的に向きを変える。そうしないと家が床ずれを起こすらしい。それで今、私の部屋は北東を向いいて、ほとんど日が入らない。 ずっと暗がりにいると空間認識もおかしくなってくるのか、部屋がずいぶん広くなったような気がする。 壁には電灯のスイッチがあったはずで、それをオンにしたいのだけど、その壁までがなかなかたどり着かない。 今日も壁には着かなかった。 ここで宿営するか。 私が暗闇の一隅で火を起こすと、他の仲間たちも集まってきた。同部屋の年老いた三兄弟だ。 「

🐍月食サロス128番の旅 37/71(11)(Sabian Story)

*** じーっと水晶を見ていると、右から急に黒い影に覆われて 「うわあああ!」 僕は水晶の中に落ちていった。 落ちて、ずーっと落ちて、落ち続けている。アリスもこんなふうに落ちていたんだろうか? そんなことを考えていると、 「ちょっと、君、君、」 落ちている僕に話しかけてくる者がいた。 「はい。なんでしょう?どちらさまで?」 「そうよ私はインドのヒーラー」 ・・・あー、なんかヘンな奴にキャッチされたっぽい。 「あー君、今へンな奴につかまったって思ったでしょう

素麺にして出荷する仕事の話

「でも、口で説明しただけじゃわかんないよねー。」 と配属先の先輩が言うので、僕はうんうんと頷いた。 それから彼は窓の外を見ると、 「ちょうどいい。じゃあやってみせるから、ついてきて。」 と言って、僕を屋上に連れ出した。 空にはフワフワしたケサランパサランのようなものたちが、気流に乗って流れてきていた。 「あれにしよう。」 彼は一つのケサランパサランを指さした。それから長い棒を持つと、棒の先をケサランパサランの根元のところに引っ掛けた。 それからゆっくりと棒を左右に振

分点を挟んだ4つのサビアンより

胸の中心には穴がある。 昔誰かに刺されたのだ。 十字の杭を打ち込まれたんだよ、そう記憶は言うけれど、 今思えば細い針で留められただけだったかもしれない。 穴からはびゃーっと血が飛び散った。 ずいぶん勢いよく出るものだな、と その様を見ながら、 意識は周りのあちこちへと飛んでいった。 規則などなくランダムに血が放たれたから 混線した電話のように、 様々な人種、様々な時代の声がした。 近づいては去ってゆく動物たちの足音。 ごうごうと水を流している植物。 地面は滑らかに動いたが

岩を担ぐ娘の話

「アンドロメダ、あなたもそろそろお年頃なのだから、ちゃんと花嫁修業しないと。ちゃんと体は鍛えているの? 」 「もちろんですわ、お母様。このあたりの岩は全部制覇しましてよ。今日だってほら!」 アンドロメダは背に担いでいる大岩を見せると、その場でスクワットを10回行った。 「さすがはわが娘!これならどこへ嫁に出して恥ずかしくないぞよ。」 : 婚礼の日、カシオペア母は国一番の大岩を娘の背に括りつけた。アンドロメダはそれをひょいと担ぎ上げ、母に別れの挨拶をする。 「お母様

蓋を投げる大女の話

彼女はマンホールの蓋を外すと、慣れた構えをしてくるくるっと回り、その蓋を遠くへ飛ばしてやった。 周りに居合わせた者たちは、良いものを見れたと拍手喝采である。 円盤のゆくえを見届けた彼女は、観客らに軽く会釈をし、脇によけておいた槍を手に取り、立ち去ろうとした。 「あ、あの、ちょっとお話伺ってもいいですか?」 わたしは勇気を出して彼女に話しかけてみた。 「ええ、いいわよ。わたくしのファンなの?」 「今の見事な投擲に見とれてしまいました。それで、そちらの槍はお投げにはな

そのように見えたという話

網タイツのような服を着た女は、 背後から男に抱かれていた。 男が抱えていなければ、網目はどこまでも侵食し、境界の全てを食べつくしていただろう。 どこまでかは静かだった。 どこからか、女の呼吸が揺らぎ始めた。 「その両の手で抱えたわたしの胸をあなたは揉まぬのか」 そう女が言うならば、それは必ず行われなければならないことです。 男は女の胸を揉む。 女はぐにゃぐにゃと乱れ始める。 整っていた網目も、 もつれたり、破れたり、広がったり、 乱雑さを増してゆく。 とうとうの

僕と人形の彼女

僕は右手に人形を握っていた。 少しずつ握る力を強めていく。 ここで限界だね、と思った僕の手を、さらに強く引き寄せたのは、たぶん人形の彼女のほうだったのだろう。 あ、折れた。 サイリウムの中の薄いガラスアンプルを割ったような感覚だった。 人形は息絶えたかのように、いったんグニャリと張りを失ったが、間もなく手足がニュルニュルと伸び始め、僕の腕に巻き付いてきた。蛇のように巻き付き、それから根のように僕の内へ侵略していった。 僕の細胞は、次第に彼女の細胞に置き換わっていく。

sabian stories 土星にて

激しくぶつかる波の音は、岩の中にも響いていた。 外は嵐だろうか? それともプレートの移動が加速したのだろうか? 「そろそろ出てもいい?」 子どもたちは出たがりだ。 母親が止めていなければ、今すぐにでも階段を駆け上がり、岩戸を破って外に出てしまうだろう。 「ほら、外から扉をノックをしている。出てもいいって合図だよ。」 「いいや、まだだ。あれは我らをおびき寄せるためのおとりだよ。ピラミッドとスフィンクスが再び邂逅するときを待ちなさい。」 「ねえ、今度は外から歓声が聞こえる

sabian stories 冥王星にて

その子の一言のせいで、男の人気はガタ落ち。ファンの女性たちから「幻滅だ」「絶望だ」の声が多数。ネットでも炎上だ。 ・・・ 「思った通りですね。」 社長室に入ってきた子どもが言った。 「すぐに流されるバカばかりだな。」 ソファでくつろいでいる炎上中の男が答えた。 「アナタのファンが、バカばかりだったということね。」 デスクにいる女社長が即座に返した。Twitterに『そんな人だとは思いませんでした。幻滅しました』と最初に書いて流れをを作ったのは彼女である。 デスクの横

sabian stories 海王星にて

私がそこにたどり着いた時には、 船長が引退後であったり、 港ごと無くなっていたり、 それでまた 一周をしてこなければなりません。 ちょうどタイミングよく二人が揃うと、 船にも乗れるのだよ。 そう聞いたことがあります。 これまで歩いていて出会ったのは、 そのことを教えてくれた彼だけです。 しかし、私と同じように歩く人々の気配は、 ひしひしと伝わってきます。 だんだんと足が重くなるのは、 私が弱ってきたからでしょうか? それとも、運ぶ荷が増えているからでしょうか? それで

sabian stories 火星にて

「前進あるのみ。昨日より今日、今日より明日、成長と理解を進め、成果を積み重ねるのだ。」 毎日の短い朝礼。指導者からの言葉と共に、町中のいたるところに、ホログラフィーで彼の手が映し出される。火星の建国を支え続けてきた手は、その映像だけでも強い力がある。集団を束ねる力、そして、集団からはみ出たものを叩き落す力。 朝礼が終わると、静止していた国民らは活動を再開し、それぞれ自分の仕事を始める。揃いの制服を着た兵士たちは、隊列を組んで出動する。学校では子どもたちが、運動場で身体を鍛

壁に勧誘された話

そこには壁があるという話でしたが、何も返してはこないのです。 それで試しに腕を伸ばしてみたところ、蠢くものたちが、ねっとりと覆ってきて、そのまま。ずっとそのまま。 すっかりと馴染んでしまって、腕の先の感覚が無い。 「壁というのは、跳ね返してくれるものではないの?」 「いいえ、ご自身で引き返されていかれるのです。無自覚のようですが。」 「引き返さないとこうなる?」 腕と壁は一体化して、まるで壁から私が生えているようだ。 「そうですね。あなたは適性があるようだ。どう