ヨーグルト狂騒曲
ある日、玄関の外で子どもをベビーカーに乗せていたときのこと。
「今ね、サンプル配ってるの。ヨーグルト食べる? これ病院にしか置いてないやつ。3個で450円」。気のよさそうなおじさんが野球帽かぶって勧誘してきた。夕刻の忙しい合間。
「今キャンペーンしてるからお得よ。宅配の契約してくれたらおまけどっさりあげる」。
ヨーグルトねぇ、確かに毎週買ってるけど。味が好みかわからないからと適当にかわし、サンプルだけもらってその日はおしまい。
1か月後、夕飯の支度中にピンポーン。家族かと思ってご機嫌に開けてしまった。
「奥さん、今ヨーグルトのサンプル配ってるの。病院にしか置いてないやつで・・・」
この間も見た野球帽にこの間も見た小さなビニール袋に緑のヨーグルトが3つ。ていうかこの人、私の顔覚えてないんだ。そっか、こないだは家じゃなかったしね。今はエプロンしてるしね。いっつも配り歩いてたらわかんないよね。ってそれでいいのか? それとも知っててかまかけてる?
「月1,500円なんだけど簡単に解約できるし、今契約してくれるなら1,500円以上のサンプルこの場であげるよ」。
2回目ということ、前回のヨーグルトをわりと気に入ったこと、そして肝心かなめのその日わりといいことあって機嫌よかったこともあって「ほんとに1か月で解約するかもしれませんが」と契約してみた。人生で乳製品の宅配をお願いする日がくるとは。簡単にサイン。そして、ブルーの牛乳箱が置かれて毎週木曜日に律儀に宅配がくるように。
そうこうしているうちに1か月が過ぎ、味にも飽きたので公約通り電話で解約。ブルーの牛乳箱はそのまままだ回収にも来ておらず、もちろんヨーグルトが宅配されることもない。うちはスーパーで個装されたヨーグルトを買う新しい習慣ができた。
そんなある日、インターフォンがなると女性の声。
「ヨーグルト食べますか?今サンプル配ってるので受け取っていただけないですか?」
新しいヨーグルトね。一人で在宅してヒマだったのか、受け取るだけならと顔出してみた。
ずいぶん慣れ親しんだ小さなレジ袋にまた、見慣れた緑のヨーグルトが3つ雁首そろえて私を笑っていた。
新人らしき女性がいう。
「これ、病院にしか置いてないやつで、スーパーで売ってなくて・・・」
そうそう、栄養たっぷりで、途中で解約もできて
「今ならサンプルたくさんつけられるから・・・」って顔をあげるとまた野球帽のおじさんが肩越しで言葉をついでいた。
「1か月だけでもいいから、とってみない?」
足元にはまだブルーの箱が転がっていて、解約の電話をして2週間と経っていないのにこの既視感。
「次きたらまた契約しようか・・・」。
サンプルだけ受け取り、悪いことはできないぜとつぶやく朝。
主に書籍代です。