2019 横浜国立大学 都市科学部 環境リスク共生学科 後期 小論文 模範解答

問 1.
 かつての社会学者は、社会が発展するにつれて社会を統制するシステムも発達し、社会や個人の人生の予測可能性が高まることで、社会発展がリスクを減少させるという展望を持っていた。しかし、1980年代頃から近代社会の構造転換を主張する社会学者が登場し、彼らは社会構造の転換とともに、「リスク」が深化するということを明確に主張するようになった。たとえば、社会システムの持続可能性に関わるリスクの深化とは、「生活水準向上の願い」と「社会の持続可能性」との間のジレンマを解くことが課題となることである。他方で、個人の日常生活世界において生起するリスクは、人生における選択可能性の拡大と実現可能性の低下というギャップをどのように埋めることができるのかという実践的課題につながる。さらに、自由とリスクはトレード・オフの関係にあるため、両者をどのように調和させていけるかが、社会科学者に課せられた問いとなる。(390字)


問 2.
 筆者は、社会のリスクにおいても、個人のリスクにおいても、自由とリスクをどのように調和させていけるかが課題であると主張している。この課題に対し、自由を追求することが可能になった近代社会においては、社会においても個人においても、可能な限りリスクの回避やリスク管理を行うことが必要になると考える。というのも、人々がリスクを全面的に負わなければならない事態を回避する方策が複数あれば、リスクをコントロールしたうえで、自由を追求することが可能になると考えるからだ。
 たとえば、ある科学技術の発展が地球や社会に対して破壊的な影響を及ぼす可能性を有しているとする。これに対し、科学技術の運用のあり方についてガイドラインを定めたり、エネルギー利用のあり方や我々の生き方そのものを再検討する方策が考えられる。というのも、科学技術がもたらすリスクを正確に認識し、リスクを管理することによって、さらなる科学技術の発展の方向性を見定めることができると考えられるからだ。他方で、個人の人生においても、個人が失敗しリスクを負うことはある。それゆえ、個人の基礎的な生活を支えるセーフティーネットの充実化や、再チャレンジが可能な制度を社会において整備することが可能だと考える。その結果、リスクを個人が全面的に負う事態を回避できると考える。
 以上より、社会においても個人においても、リスクに対してその回避策や緩和策を複数展開していくことによって、リスクを全面的に被る危険度を低減させることが可能だと考える。その結果、筆者が述べるように自由とリスクを調和させていくことにつながると考える。そのためにも、何が私たちにとってのリスクとなりうるかを正確に把握し、理解することが重要となると考える。それゆえ、リスクそのものを学として系統立てて学ぶことには意義があると考える。(763字)

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