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マジックを演じるために知っておくべきこと(連載1)

まえがき

「マジックを演じる上で最も大事な事は何でしょうか?」この質問にわかりやすい言葉で簡潔に答えられる人はいるのでしょうか?

  僕は自分の経験から、不思議さなのか、不可能性なのか、楽しさなのか、ストーリーなのか、いろいろ考えましたが、でもそれらは一時的なものでした。例えば僕の場合、ある時期は技術が大事と思いながら「不思議だけどつまらない」と言われ、またある時期は話術が大事と思いながら「分かった!」と言われて焦ったりしていました。もちろん全て優秀であれば、それに越した事はないのですが、いったい何を基準に、何から練習すれば良いのか分かりませんでした。

  結局のところマジックには、説明、演技、構成、技術、常識、人柄などの能力がある程度必要で、しかも同時進行させなければならないので、他のパフォーマンスと同様に一言で何が重要とは言えませんし「マジックとは何か?」を答えるには数日かかると思うのです。

  その上で、マジックと他のパフォーマンスとの大きな違いは、主たる目的が「不思議さ」である事は間違いありません。ところが僕はこの「不思議さ」を表現するための総合的な理論を、日本語で見たり聞いたりした事がなかったので、各国のマジシャン達が説明する部分的な理論を、パズルピースのように集めて、日本語の総合的な理論を完成させようとしました。ところがパズルピースは日本の習慣に合わなかったり、みつけられないものもあったので、足りない部分を僕の経験で埋めて、全体像を日本語で見られるようにしたつもりのものがこの文章です。とはいえ僕の未熟な経験で作ったものですから、ひとりよがりな部分もあると思いますが、ひとつの考え方として興味を持って頂けたら嬉しいです。

2021年6月
ふじいあきら


【ニュートラル理論】

  ほとんどの場合、マジックを実演するためには何らかの仕掛けの使用、または技術などの秘密の動きが必要です。この冊子ではこれらの事を「秘密の動作」と表現します。

「ニュートラルとは」
  不思議を演出するには最終的に「秘密の動作」と「表の動作」を同時進行する必要がありますが、最初は「表の動作」だけを違和感なく実行する必要があります。「表の動作」というのは、観客の前に登場する、挨拶、自己紹介、必要な用具の説明、セリフ、カードのシャッフルやスプレッド、シルクやロープの取り扱いなど、観客から見える全ての動作を指します。つまり「秘密の動作」を含まない「人前での普通」の立ち振る舞いを、その人のマジックを演じる時の理想の形として「ニュートラル」と表現します。

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