心因性頻尿ってなんだ?

みなさんは「心因性頻尿」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。

おそらく大半の方は思い当たる節がないでしょう。あなた自身が、あるいはあなたの身の回りの誰かが罹患している場合を除けば、日常生活では出くわすことはないと思います。とはいえ、漢字を見ればそれが言わんとするところを想像するのは難しくないはずです。

「頻尿」というのは一度は聞いたことがあると思います。排尿の頻度が多いことを言います。一般的には、日中に8回以上、夜間に2回以上トイレに行くことが頻尿の目安の1つとされています。ただし、これはあくまでも目安であって、健康な人でも排尿回数には個人差があります。1日に10回トイレに行ったからと言ってすぐに異常だと判断されるものではありません。(参考:日本泌尿器科学会)

では、頻尿の原因としては何が挙げられるでしょうか。

そもそも、頻尿と聞くと、お年寄りの方の悩みという印象が強いと思います。確かに、尿路系機能の低下や男性ならば前立腺の肥大など加齢に伴う症状として頻尿が発現するケースは多いです。しかし、お年寄り以外は頻尿と無縁なのかといえばそうではありません。若者でも頻尿に悩まされることはあります。これには、様々な原因が考えられます。

まず、有名なものとして過活動膀胱というものがあります。これは、40代以上によく見られますが、30代以下でも発症します。今、頻尿の原因として過活動膀胱を取り上げていますが、その症状はこれだけでは収まりません。それが、尿意の切迫と失禁です。膀胱が勝手に収縮してしまい、我慢が利かなくなるのです。程度の違いはあるにせよ、驚くことに、40代以上では7~8人に1人が過活動膀胱を抱えているとのデータがあります。(参考:日本排尿機能学誌)

膀胱炎、尿道炎、糖尿病なども頻尿を引き起こします。また、一見すると尿路とは関係のない器官の異常が原因となって頻尿となることもあります。脳梗塞やパーキンソン病といったものがこれに当たります。普段何気なしに行っている排尿は、多くの要素が正常に働きあってなされているのです。

また、原因だけでなく症状も多岐に渡ります。先ほどの過活動膀胱は症状の名前としても流布しています。症状は言葉としていくつかのタイプに大別されますが、患者ごとにそれぞれ違います。

少しタイトルからそれましたが、ここから心因性頻尿の話をしていきます。


心因性頻尿は心に原因がある頻尿のことを言います。(そのままですね)

心に原因があるということは、基本的には身体器官には何の異常もありません。そのため、尿検査などを行っても特に問題は見つかりません。今まで挙げてきたものとの違いはここです。発端・プロセスが他の原因と比べて異質です。また、心因性頻尿こそ割合として若者にも多く見られます。もっとも、心なんて思考活動なのだから脳の問題だとか、結局頻尿になってるのなら身体の問題だとか、考え出すとキリがないですがそれは一旦置いておきます。

では、心に原因があるとは一体どういうことでしょう。


みなさんは、緊張するとトイレが近くなった経験はありませんか?

試験や舞台発表などプレッシャーのかかった場面を思い出してみてください。よほど自信に満ち溢れた人ならばそもそも緊張すらしたことがないという方もいらっしゃるかとは思いますが、多くの方は緊張したことくらいはあると思います。緊張自体は状況に対する人間の反応として正常なものです。適度な緊張は自身のパフォーマンスを高めてくれます。しかし、これが過度なものになるとむしろ悪影響が出てきます。そのとき、思考の状態、身体の状態はどうなっているでしょうか。

緊張しすぎというのはいわば不安や恐怖に支配されている状況です。「うまくいかなかったらどうしよう。失敗してしまったらどうしよう。」とネガティブな考えが頭を駆け巡ります。このようなことをずっと思い詰めていると一種のパニックに陥ります。いつも通りの振る舞いが出来なくなってしまいます。

心因性頻尿の発端の多くはこれと似たようなところがあります。「またトイレに行きたくなったらどうしよう。間に合わなかったらどうしよう。」こういったトイレへの不安で頭がいっぱいになるのです。そして、すぐにトイレに行きたくなってしまいます。一度このような観念に囚われると、なかなかそこから離れることができなくなります。別のことに意識を向けようと思っても「なんで今それを考えようとしているんだ?」などと考えてしまって結局またトイレのことに頭が戻ってきてしまいます。負のスパイラルから抜け出せないのです。

困ったことに、我々は「賢い」ので、それを「学習」してしまいます。すなわち、以前不安を感じた場面と同様の状況に遭遇した際に、再び不安に駆られてしまうのです。例えば、過去のとある試験中に猛烈な尿意を感じたのならば、別の試験において当時経験した切迫感がフラッシュバックしてきてまたトイレに行きたくなります。

さらに症状が悪化すると、この切迫感というのが次第に勢力を拡大していきます。今の例で言えば、トイレへの不安が大きすぎて試験を受けること自体を忌避する、あるいはバスの中など当初の場面とは異なるときにも不安感に襲われるといった具合です。

こうしてトイレのことを考える時間が多くなると症状が慢性化してしまい、日常生活に支障をきたすことになります。あれもだめこれもだめと様々な場面を避けるようになります。冒頭に「罹患」という言葉を使用しましたが、この段階まで達すると、れっきとした疾病だと捉えられると思います。ちょっとした悩みであったはずのことが、穏やかな日常を覆し、人生を狂わせるまでになります。元々不足していた自信をさらに失い、負の自分が己の精神を制圧します。

心因性頻尿になる人とは?

話が随分と後ろ向きになってしまいましたが、最後に、心因性頻尿を発症しやすい人の傾向について述べたいと思います。

当然のことながら、トイレを我慢したことというのはほとんどの方が経験していると思います。しかし、それが後に不安を駆り立てるケースというのはさほど多くはないでしょう。もし、我々が皆揃って上記のような思考に陥っていたら世の中はもっと心因性頻尿を抱えた人でいっぱいになるはずです。ただし、頻尿というのは他人に非常に言い出しづらいですから、世間の認知度に比べたらかなりその数は多いと思います。(これについては後の投稿で改めて書きます。)

自分もそうなのでよくわかりますが、心因性頻尿になりやすい人としては、神経質な人、完璧主義者、こだわりの強い人などが挙げられると思います。良く言えば、リスクマネジメントが得意で細かい点を見落とさないのですが、それはつまり、些細なことを気にしすぎるということでもあります。失敗したときに上手く切り替えられない。同じところに固執してしまう。こうしたほうがいいと頭ではわかっているのにそうできない。このような性格だと、トラウマを抱え込みがちになります。心因性頻尿になった場合は、たまたまそれが尿意だったということです。


今回はこの辺りで終了といたします。最後までお読みいただきありがとうございました。

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