見出し画像

活用進む政府の事業再構築補助金事業 ~企業の事例と専門家のコメント~

 経済産業省が実施する政府の「事業再構築補助金」の「事例集」が公開された。本稿では、うち1社の事例について紹介するとともに、実際に補助金申請の支援を行っている専門家の声を紹介したい。

 計画・書類作成や補助事業終了後5年間の経営状況等についての年次報告といった負担感や、自社の計画は「事業再構築」に当たるのだろうかといった迷いから、まだ申請に至っていない経営者の皆様に少しでも参考になれば幸いだ。

 この補助金事業の正式名称は「中小企業等事業再構築促進事業」、政府の令和2年度の補正予算事業で、予算額は1兆1,485億円。「ポストコロナ・ウィズコロナの時代の経済社会の変化に対応するため、中小企業等の思い切った事業再構築を支援することで、日本経済の構造転換を促す」との目的だ。

画像1

事業再構築補助金(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/covid-19/jigyo_saikoutiku/index.html

 この事業については、本稿執筆現在、9月21日締切の第3回公募が行われている。経済産業省の資料によれば、第3回公募を含めてあと3回程度公募する予定という。

事業再構築補助金の概要(中小企業等事業再構築促進事業)4.0版
(令和3年7月30日 中小企業庁)
https://www.meti.go.jp/covid-19/jigyo_saikoutiku/pdf/summary.pdf?0730

 この事業の活用を促すべく、事務局のサイトでは、第1回公募で採択された事例5社を紹介している。埼玉県からは、株式会社ノースコーポレーション(さいたま市)、Chainos Japan株式会社(川口市)の2社の取り組みが紹介されている。

 埼玉県内で飲食施設を経営するノースコーポレーションは、この補助金を活用し、飲食小売業に進出する。

 同社は、県内でトラットリアアズーリ(武蔵浦和)など8店舗のイタリアンレストランを経営する。コロナ禍における緊急事態宣言や時短・会食自粛の影響で、売上7割減という店舗も現れる厳しい経営状況を迎えていた。 

 こうした中、同社は、開業25年の第1号レストランを地産地消セレクトショップに改装して、地元産食材のブランド商品を開発・販売する拠点とする。また、既存施設をセントラルキッチンとして整備し、小売用商品の加工とレストランの仕込みの2つの機能を両立させることで生産性を高める。

 同社の北康信社長(49)は、「今回の事業の見直しでシェフの技術を活かしながら事業を継続できる収益性の高いビジネスモデルへの移行を目指す。お客様にも店舗の時短休業で迷惑をかけた生産者さんにも早く元気を届けたい」と語る。事業再構築補助金で再生するディアボラ浦和店は12月上旬を予定しているという。

 同社は、近年、地域内連携による加工食品開発を積極的に進めてきた。既に、地域資源を活用した「秩父ルージュとブドウの搾りかすを使った焼肉のたれ」や「秩父おなめのバーニャカウダソース」、「さいたまヨーロッパ野菜研究会のミネストローネ」などの製品を協力工場で生産、販売している。今回の事業再構築は、自社の得意分野と人材、店舗を活かしつつ、垂直統合に打って出るかたちだ。 

画像2

(秩父ルージュとブドウの搾りかすを使った焼肉のたれ)

ノースコーポレーション
https://north.co.jp/

第1回公募 新たな事業の取り組みにおける事例紹介
https://jigyou-saikouchiku.go.jp/pdf/cases/01_jireishiryou.pdf

 
 公認会計士・税理士の青山裕之氏(39)は、「今後も募集は続く見込み。経営者の皆様は、焦らず、難しく考えすぎず、何が認定のポイントか、認定をどう今後に繋げるか、補助金に詳しい専門家に相談してほしい」と語る。

 同氏によると、相談を受けていて「事業再構築」という言葉について、「何か違う分野で新しいことをしなければならないのではないか?」と考える経営者が多いように感じるという。

「事業再構築補助金の趣旨は、新型コロナの影響で売上が減少した中小企業等について、何らかのエッセンス(建物・内部造作・機械設備・システムといった設備投資等)を加えることで変化を起こし、ポスト・アフターコロナの時代を生き抜いて、業績の回復・成長を図る点にあります。

 設備投資等により既存の製品・サービスの生産・提供方法を工夫したり、同じ事業分野の中で新たな製品・サービスを開発したりすることも含まれますので、『事業再構築』とは、程度の大小はあれど、現状からの変化・脱却を図るものであれば、範囲は相当広いように感じます。

 自社に変化をもたらす設備投資等をお考えの場合は、補助金に詳しい専門家等にお尋ね頂くことをおススメします。」(同氏)

 厳しい経営環境の中でどう生き残りを図り将来につなぐのか。悩む経営者に対し政府が差し出した「事業再構築補助金」の狙いは、「事業拡大につながる事業資産(有形・無形)への相応規模の投資」を促し、資金需要や雇用など様々な経済指標を上向かせることにある。

 これに第3回公募から「最低賃金枠」が創設され、中小企業の従業員の給与水準を上げたいとの政府の意向も鮮明になった。

 こうした政府の狙いも十分理解した上で、この機会にビジョンの実現に向け「攻め」と事業継続という「守り」の両面を加速できるのか。出来れば申請時のパートナーとなるべき専門家に遠慮なく質問し得意不得意や信頼性なども自分で分析しながら、事業再構築補助金の活用を検討いただきたい。

認定経営革新等支援機関(中小企業庁)
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kakushin/nintei/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?