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警察学校ってきついの?番外編(スズメバチに襲われても動いちゃダメなんですか?)

警察学校番外編では「警察学ってきついの?」でし忘れた話をします。


点・礼・教


警察学校では点・礼・教(正式には点検・礼式・教練)という授業があります。

これは警察手帳や警棒、けん銃、手錠、警笛など警察官の道具を号令と共に歯切れよく動かします。

集団で一矢乱れぬ動きを上官に披露することによってその統率力や団結力などを示すものです。

この点・礼・教の授業は警察学校の中でもきつい授業でした。

約1時間、手の指先まで全力で神経を集中して直立不動を維持します。

一瞬でも指先や体から力が抜けることがあってはいけません。

やってみていただければ分かると思うのですが、30秒とか1分やるだけでもキツイと思います。これを1時間です。

仲間がいて迷惑はかけられませんからなおさら緊張感があります。

ピンっと張り詰めた体勢を班員がとっているなか、一人でもだるい体の人間がいれば必ず教官は気付きます。

そう、指は絶対に真っ直ぐ伸ばしたまま

この授業を1時間受けるとふくらはぎはパンパンになります。

署長点検


警察学校を卒業した後の話を少しします。

警察署に配属になった後、数か月かに一度、署長が点検官となって全署員が点検を受ける「署長点検」というものがあります。

これがあると前の日から少し緊張しますね。

点検を受けるというのはチェックされるということだけではありません。
軍隊的、儀式的な要素があります。

前の日から制服やYシャツにアイロンをかけてしわ一つ残さず、革靴は磨いてピカピカにします。

そして警察学校時代に学んだ動き(手帳、けん銃、警棒等全て動き方が決まっています。)を前の晩、寝る前に復習してイメージトレーニングをします。

体に染み付いているので体が勝手に動くんですが、念の為です。

当日点検を受けている最中に一人だけ動きを間違えたり、動作が遅れたりするとめちゃくちゃ目立ちますし、課長や統括官から後でこっぴどく叱られます。

学校長点検


警察学校に話を戻します。

警察学校は教育の場ということもあり、点検が重要視されていて、厳しく緊張感のある雰囲気です。

髪の毛は前日に必ず切ります

警察学校の学生なんてみんな坊主頭だからもともと短いんですけど、切ったことが分かるようにしておくのがポイントです。

警察学校では点検官は署長ではありません。

初任科だけで点検を受ける場合、点検官は初任部長(私の県では警視)がやります。

初任科生約170人が警察手帳や警笛などの一糸乱れぬ動きを初任部長に披露するわけです。

学校長点検というのもあります。

学校長(階級は警視正。かなり偉い。)が点検官ですから学校に入校している全員が点検を受けます。

警察学校には巡査部長任用、警部補任用等の今度新しく巡査部長や警部補になる人も入校していることがあります。

そういう人たちも全員点検を受けることになります。

私が初任科生だった半年間で一度だけ学校長点検がありました。

校内の講堂では収まりきらない人数だったのでグラウンドで全校生が整列します。

点検官から見たらさぞかし壮観だったことでしょう。

暑い夏の日でした。

指先に全身の力を込めます。

指先だけではなく体の全ての場所、隅々まで全神経を集中、ふくらはぎは数日痛くなっても構いません。

何せ学校長点検です。

もしミスったら後で教官から何を言われるか分かりません。

まずは服装点検

学校長と取り巻き数人が全学生の前を歩きながら服装を点検します。

私の前は無事通過。ばっちりアイロンかけてますし、靴はピカピカですからもちろん大丈夫、なはずですが一応緊張します。

学生は数百人いるので、一通り見るだけでも時間がかかります。

夏だからか、でかいスズメバチが飛んでいます。

2,3回私の班の列の前を飛び去って行きました。

頼むぞ、こんなのが攻撃してきたら逃げなきゃ刺されちまう。

そんなことを考えていたら学校長が全員の服装点検を終えて前に戻りました。

これからが本番
手帳、警棒等の点検が始まります。

と、この時私達の左翼、ちょうど初任補修科生(初任科を卒業して一度交番勤務を経験した先輩方)がいる辺りだと思うのですが、大きな叫び声のような声がしました。

そして隊列が少し乱れたのが見えます。

しかし、それは一瞬の出来事だし、遠いのではっきり分かりません。

何よりこちらは全身に全力を入れている状態だし、隊列を乱す事などできませんから横目で少しチラ見するのが関の山です。

チラ見を繰り返していたら、点検が始まりました。

全てを出し尽くします。

無事終了です。数日前から緊張していた学校長点検がやっと終わったのです。

教えて、教官!


教場に戻り担任教官のお話を聞きます。

「今日は良かったぞ、お前ら……」教官の有り難いお話が終わりました。

しかし、初任補修科の隊列で何があったのか、の話がありません。

えっ、ちょっと待ってください!初任補修科生は多分スズメバチに刺されましたよね?

どうなったんですか?

何より、点検の時、スズメバチが襲って来たらどうするのが正解なんですか?

って、聞きたいけど聞けない。
班員の誰も聞こうとしない。
そして教官も言わない。

その夜、同期の一人に聞いてみました。

同期は「うーん、やっぱり動いちゃいけないんじゃないかな。」と言います。

私だったら逃げます、と言いたいところですが、あの異常に張り詰めた雰囲気の中だったら私も動けないかもしれません。

7年警察官やりましたけど、いまだに正解は分かりません(笑)

今回は以上となります。お読みいただきありがとうございました。

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