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韓国でアートマーケットがきてる

韓国のアートマーケットが賑やかになってきている。美術手帖でも記事が掲載されていた。銀座にオープンしたKÖNIG TOKIOは、ビルの建て替え工事に伴い銀座から撤退、韓国に新しいロケーションをオープンするらしい。そうしたニュースを読んでいたこともあり、韓国に現代アートがきているというのを感じていた。


美術手帖は有料会員向け記事だったけど、ARTnews は無料で読める記事を用意していたため、こちらで概要を掴む。


大規模なコレクションが美術館に寄贈された。サムスン電子会長の李健熙(イ・ゴンヒ)氏が2020年10月亡くなり、彼の遺産相続のためにコレクションの一部が贈られる。

このコレクションは10億米ドル以上の価値があり、数千点にのぼる。そして、ロイターのインタビューに応えた匿名評論家によれば、ルーブル美術館のモナリザ、システィーナ礼拝堂のアダムの創造に匹敵するような見るべき価値があるという。

サムスン電子創業者である李健熙氏の父親も美術品を蒐集していた。それを引き継ぎつつも、モネ、李仲燮(イ・ジュンソプ)、ピカソなどの巨匠の作品をコレクションに加えたという。それほどのコレクション、巨匠の作品をこれから集めるのは、ほぼ不可能だし、先代から積み重ねてきた時間もコレクションを強化しているのだろう。

ただ、コロナ禍で、あり得ない作品が流通しているらしい。



サムスン電子の文化財団は美術館も運営している。

美術品に限らず、李氏の遺産は莫大で記事によれば相続の税金が100億米ドルを超えるとある。彼のコレクションが分割、売却されて、国外に流出することを防ぐために、美術品による納税ができるような法案を成立させようとする動きがあった。

そうした議論を経て4月下旬に23,000点の作品を美術館に寄贈するという。

これだけのコレクションを持つ美術館が韓国に出現する。それは香港に代わってソウルがアジアのアートの中心地になる可能性を持っている。

ソウルには2019年現在100の美術館がある。その数は全国的に見ても増加傾向を見せている。2008年から2019年の間に、127から256へと倍増した。その4分の1は国公立であり、残りは民間出資という。

それら美術館がアートの買い手になっている。サムソン電子程では無いにしても旺盛にコレクションを強化するために作品を収集する意欲があるという。

買う主体と飾る空間がある。

そうなれば、売る主体がやってくるのは自然なこと。このあたりに韓国アートマーケットの盛り上がりの要因があるのかもしれない。


化粧品のアモーレパシフィックは、デイヴィッド・チッパーフィールド設計の本社をソウルにオープンした。そこには広大な展示スペースを含む。

Its CEO, Suh Kyung-bae (an ARTnews Top 200 Collector since 2016), has filled the Amorepacific Museum of Art with works by Sterling Ruby, Adam Pendleton, and Lee Bul, many fresh from the studio.

CEOはARTnewsのトップ200コレクターに入っており、美術館はスタジオから届いたばかりのスターリング・ルビー、アダム・ペンドルトンらの作品で埋め尽くすという何とも豪快な様子が伝えられている。


アートスペースは、ブランドにとっても競争の手段となっている。偉大なコレクションはブランドを強化し、またブランドの成長とともにコレクションを強化していく。そうした相乗効果がアートには組み込まれている。

これはアート思考として、ビジネスにアートの発想を持ち込むという考え方が既に時代遅れになっているということを示唆している。アートによるブランドの強化は、既に当たり前となってきている。


小売りの現場でも展示スペースをアートで埋め尽くす動きがある。

汝矣島(ヨイド)地区にオープンした現代百貨店は専用の展示スペースを用意した。ライバルのロッテは、ロッテ・ワールド・モールの中に美術館を持っている。そこで行われたバスキア展では10万人の来場者があった。

A touring Basquiat show there recently drew more than 100,000 visitors, a big number even in non-pandemic times.



韓国の国立現代美術館(MMCA)は、李氏の寄付の一部を受け取った。国宝を含むコレクションは博物館に寄贈され、国内のコレクションが強化されていく。美術業界では、この寄付が将来のパトロンの模範となることを期待している。

the hope in the art industry is that the donation could set an example for future patrons.

これは納税額の軽減とともにサムソン電子のイメージを向上させる効果がある。ある種のアートウォッシングだろう。

(With Samsung’s de facto leader, Lee Jae-yong [Lee Kun-hee’s son], in prison for bribery, the donations also had the helpful benefit of generating some favorable press for the family.)

ただし、こうしたことはコレクターとディーラーの秘密主義な関係に切り込むことになりそう。


商業と関連した動きだけでなく、国が管轄する美術館の動きやアーティスト、ディーラーへの支援もある。

1995年に政府がアート界を盛り上げるために始めた「光州ビエンナーレ」は世界的に注目された。1979年に韓国ギャラリーズ協会が「韓国ギャラリーズアートフェア」を開催。今年の3月には、48,000人の来場者があった。

公的な美術館とバザール的なアートフェア、こうした両面からの活動がアート・ワールドを強化しているのは間違いない。

ニューヨークのギャラリーのソウル支店のシニア・ディレクターの言葉「私の20年のキャリアの中で、あのフェアであれほど多くの人を見たことはありませんでした」

“I’ve never seen so many people at that fair in my entire 20-year career,” said Emma Son, senior director at the Seoul branch of New York’s Lehmann Maupin gallery

売り上げも好調で、地元の強い需要を示す最新の指標となった。2007年にもこのような強い市場動向があったみたいだが、今はそれ以上に熱気が上がってきたように見える。

Sales were good too, the latest indicator of strong local demand. “I keep telling my colleagues, it feels like a revival of what happened back in 2007,” Son said of the bullish mood in the country. That preceded a crash, but this time, she said, “the market is a lot stronger.”


韓国では美術品に輸入関税がかからず、6,000万韓国ウォン(約580万円)以下の作品や、存命アーティストについても税金がかからない。これが、PACE、ペロタン、Lehmann Maupinがソウルにスペースを構えた理由らしい。

The same goes for work made by living artists. Between 2016 and 2017, Lehmann Maupin, Emmanuel Perrotin, and Pace all took space in the city.

ソウルには、中国のコレクターも日本のコレクターもやってくるという。

Samcheong also attracted New York–based Lehmann Maupin, which had been showing the Korean stars Lee Bul and Do Ho Suh for years, and which also has London and Hong Kong outposts. “We had a very important base of Korean collectors,” cofounder Rachel Lehmann said. Before international travel halted, Seoul was a meeting point. “You would have Japanese collectors, you would have Chinese collectors who were coming, for example, to do a food trip,” she said.

PACEは、すぐさまスペースを拡大したという。

“I’d rather just start than build a temple to myself,” Pace CEO Marc Glimcher said.

韓国人アーティストの作品収集もソウルに支点を構えた目的らしい。そして、韓国の多くのコレクターは、かなり最近までアートと出会う場を知らなかったという。

ソウルへは、メガギャラリーだけでなく、より規模の小さなギャラリーも進出してきている。

出かけられなくなることが、地域の活性化に繋がった事例と見ることができるのか、それは、今後数年の中でひとつの知見が得られそうな気がする。


韓国はBTSのような「韓流」をアートでも実現しようとしている。

South Korea has been spending money to promote the field, aiming to create, for art, the “Korean wave” (hallyu) enjoyed by Korean pop juggernauts like Blackpink and BTS.

若いアーティストに対する支援も積極的に実施している。アーティストだけでなく、ディーラーにも資金提供があり、大きなものではないが経費の一部にすることができる。

アートが活発にも関わらず商業的なプラットフォームを持っていないと言っているのは、KÖNIG のディレクター。

“Despite having a very rich art scene, many talented emerging artists in Korea do not have a platform in a commercial sector, although they are highly active in nonprofit art spaces and institutions,” Choi, the new König director, said.

KÖNIGはMCMと提携している。


韓国に進出するメリットのひとつに相対的なコストの低さがある。

For foreign dealers entering Seoul, costs are by no means low, but the city is more affordable than some other metropolises.

外国人にとって最も物価の高い都市ランキングは、香港、東京、ニューヨークとなっている。ソウルは8位。(これは賃料が主要な割合と思われる。)そうした初期コストを除いて考えてみても韓国は免税であるため、香港と同じように考えることができる。政治的な観点からも韓国のポテンシャルは高くなってきている。

Friezeは韓国に注目しており、ソウルに新たなアートマーケットの中心地を作ろうとしている。

こうした商業的な動きは資本力だけでなく、アートスクールも必要だし、オルタナティブなスペースも必要である。そうした場は政府などの資金提供により増殖している。

Of course, it takes more than well-capitalized companies and plucky entrepreneurs, whether foreign or domestic, to make a vital arts center. It takes solid art schools (check, in the form of Hongik, Seoul National, Korea National, and others). Alternative venues help too, and they have proliferated, aided by government grants and diverse funding models.

資本だけではない育成の考え方。このあたりが、企業人にとって不可思議に映るところ、ただ、これこそがアートである。

オルタナティブなスペースを運営しているSangjin Kimの言葉、売りたいけれど難しい。コレクターが購入する商業分野と、そうではない実験的な分野には大きな隔たりがあると彼は考えているが、妻のジンホ・リムと一緒に運営しているギャラリーは、まさに後者のカテゴリーに属する。

“We don’t do sales,” Sangjin Kim, director of a space called Out_Sight, said wryly. “We want to, but it’s not really easy.” There’s a wide divide between the commercial sector, where collectors buy, and the experimental realm, where they do not, in his view, and the gallery he runs with his wife, Jinho Lim, is very much in the latter category.

先の東洋経済のnoteにも書いたけど、日本でもこうしたアートの中心地を誘致しようという動きが無いわけじゃない。

ただ、まだスタートラインにも立っていないと思う。




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