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《虚の秘密は私のみぞ知る》石黒光

東北芸工大の東京選抜展、石黒光さんの作品は出口近くに提示されていた。大きな画面、絵画ではあるが、その大きさから壁のように感じる。

《虚の秘密は私のみぞ知る》, ©石黒光

画面の右下にある格子は土壁の中の小舞を想起させ、すると画面に前景と後景が立ち上がる。画面中央から左手は穴と見立てることになるだろう。すると、はがれた土壁とは別次元の穴、そこに浮かぶ二つの顔、穴の中央下寄りの一段暗い黒、様々なレイヤーが立ち上がってくる。
浮かび上がる二つの顔は生と死を暗喩しているのだろうか。開いた眼と白い顔、閉じた眼と薄暗い顔、閉じた顔の近くには蛾がある。蛾のモチーフには様々な意味あいがあるが、死からの転生を表しているのだろうか。

小舞のようなものの奥には壺が横たわっている。更に奥を覗き込みたくなってくる。

《虚の秘密は私のみぞ知る》(部分), ©石黒光
《虚の秘密は私のみぞ知る》(部分), ©石黒光

画面中央の穴の内部では星がきらめく様子と更に奥に見える金冠が、奥行きというか深淵を感じさせる。

綿布、岩絵具、水干絵具、セメント、様々なマテリアルと、縫合された綿布、そうして構成された画面は溢れるほどの情報が散りばめられているが、静かであり、対話がある。

再度、画面全体を俯瞰して見れば、赤い瞳の巨大な獣がこちらを見ているかのようでもある。

自分の精神とそれを取り巻く世界に、実は境界など、もともと存在しないのかもしれない。

「奥野克己『モノも石も死者も生きている世界の民から人類学者が教わったこと』読書メモ」noteより

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