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《Nyenyedzi nomwe》Kresiah Mukwazhi

アートバーゼル、バーゼル・イン・バーゼルを見に来た。6/10から始まったアートフェアは6/12からプレビューを開催している。お金で買えるチケットは6/12のホール1.0から公開が始まり、ホール2.0は夕方から入場することができる。

ホール1.0はUnlimitedとして、大型のインスタレーションなどが展示されている。マーク・マンダース、ミリアム・カーン、ロバート・フランク、ウーゴ・ロンディーネ、マルタン・マルジェラ、ライアン・ガンダー、クリストなどの作品が並ぶなかで若手作家の作品も提示されている。そんな中で目にとまったのが、Kresiah Mukwazhiの作品だった。

遠目で布地だと分かった。遠い場所から見ていた時は民族衣装あるいは伝統的な織物の作品だと捉えていたが、近づいてみたら様子が異なる。メディウムを確認すれば、ブラジャーのストラップやフックを使った作品であることが分かった。

《Nyenyedzi nomwe》(部分), Copyright Kresiah Mukwazhi

それだけならば、女性を縛り付ける象徴と捉えられるかとも思えるが、そのサイズに驚嘆する。

Bra straps on canvas, 350 x 800 cm

アートニュースの記事によれば、これらは使用済みだという。キャプションによれば、サルベージされたブラストラップ、レース、クリップとある。これは実際にセックスワーカーにインタビューをして、集めてきた。

フックが照明に反射してキラキラと輝く反面、そのメディウムを知ることで、バックグランドが浮かび上がる。

タイトルはショナ語だろうか。ジンバブエの公用語は複数あるようだった。ショナ語だとして、Google翻訳で確認すると”セブンスター”と返ってきた。プレアデスの七姉妹、ギリシア神話に登場する七人姉妹ということで、Wikiによれば、七姉妹のうち六番目までの姉妹がギリシア神話の主要な男性神の子を産んでいる。

ゼウスは彼女らを初めはハトに、ついでその父を慰められるようプレイアデスを星に変えた。

上記Wikiから(閲覧日:20204/6/12)

生まれ故郷の郊外ということだが、キャプションには"Harare"とある。その郊外のセックスワーカー達がストライキを起こしたことに起因して制作された作品である。

この作品のサイズを埋め尽くすメディウムを集めることができる。その点においても驚くことであるが、この作品に名付けた神話からの借用、神話は民間伝承などを編纂し、大勢の人が同意することで成立していく。自然支配とも捉えられるが、ゼウスによる七姉妹の運命の翻弄を考えると、家父長制に対する批判があるということを含意していることが伺える。

クリップの光の反射を美しいと捉えて近寄り、その実態を知ることで、美しさを感じたという印象の気まずさを感じさせる。その気まずさは、セックスワーカーが最も古いビジネスであるとされていることにも接続するかもしれない。最早、神話的とも言える古くからのビジネス、それは、まだまだ前景化させなくてはならないのだろう。

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