サザビーズに移籍したノア・ホロウィッツがもたらすもの Sotheby’s New Hire: Can the Auction House Lion Lie Down with Gallery Lambs?
アート・バーゼル・マイアミのディレクターだったノア・ホロウィッツが退職してサザビーズに移籍したのが昨年の8月だった。
今更ながら、移籍後のニュースをじっくり読んでみたので、メモを残す。
ノア・ホロウィッツの移籍は少し大げさに語られたよう。オークションハウスとディラーのカテゴリーが曖昧になってしまうということが懸念されたらしい。
Vanity Fair itself combined heaven and earth into a mixed metaphor to call the personnel move, “a seismic shift in the whole art world firmament.”
特に雑誌Vanity Fairはスペクタクルな言葉で、この人事異動によって生じる変化を伝えている。むしろセンセーショナルに見えるか。
オークションハウスとディーラーは、聖書のライオンと子羊のような宿命的な関係にあるという。
パンデミックによるアート・フェアの縮小、それまでのアート・マーケットの牽引役だったアート・フェアはリアル開催が2年間縮小され、その間にオークションハウスが築いてきたデジタル・シフト、マーケティングプラットフォームの効果によって2015年以来の好調な売り上げを記録した。新規購入者が3分の1になるオークションハウスもあったようだ。
デジタル・マーケティングでは、より多くの見込み顧客にアクセスすることができる。それら顧客のナーチャリングをデジタルで組み上げたアルゴリズムによって自動的に行うことができる。顧客のそれぞれのステージに応じた適切なコミュニケーションをオートマチックに行うことができる仕組みがデジタル・マーケティング・プラットフォームに組み込まれている。まぁ、それほど単純でも無いけれど。適切な仕組み作りとナーチャリングできるコンテンツがあれば、実現できない話ではない。
ギャラリー、ディーラーは、売り上げを2割ほど減らすだけのダメージで生き残れるだろうという観測がある。顧客がお金を使う機会が減ったため、販売量は好調だったらしい。そしてアート・フェアに出展する経費が無くなったために2割の落ち込みは、それほどのダメージでは無いという。アート・フェアは新しい顧客と会う適切な場所であるが、アート・フェア一辺倒からのマーケティング予算の組み立ては変わっていく。
オークション・ハウスの最大の顧客はディーラーになった。パンデミックによるアート・フェアの縮小、閉鎖によってディーラーが失った売り上げを確保する手段は、デジタル・プラットフォームを構築したオークションハウスだった。大量のトラフィックを受け入れて、販売するロットはディーラーの倉庫にある作品だった。
ホロウィッツは、オークション・ハウスとディーラー、ギャラリーを橋渡しする部門がサザビーズに存在していないことを指摘し、ここの橋渡しの役割を担う。
“I think we can create an interesting custom-fit platform to service galleries and private dealers in a very mutually supportive way,” Horowitz says.
ホロウィッツは、「ギャラリーやプライベートディーラーを相互に支援するような形で、カスタムフィットする面白いプラットフォームができると思う」と言う。
パンデミック当初、メガギャラリーが担うと推測していた。より小規模向けのデジタル・アート・プラットフォームをサザビーズのようなオークションハウスが担う。これはギャラリーにとっては、魅力的に見えるだろう。サザビーズは二次販売はもとより、一次販売についてもプラットフォームを提供している。
アートの販売方法に変革があった。パンデミックによる強制的なスタートはあったもののギャラリー、ディーラー、オークションハウスという売り手側のカテゴリーが溶けた。アートを買う一般のコレクターからすると、誰から買うのか、という点はそれほど重要では無いのだろう。新規客が3分の1になったというコメントを見ても分かる。売り手の都合は、そのうち解体される。
Given Sotheby’s reach, the buyers are likely to be new to the gallery. From there it will be up to the gallery to develop a relationship with the buyer. Through these efforts, Sotheby’s has become a significant demand generator. What the company lacks is supply to meet the new level of demand.
サザビーズのリーチによってもたらされる顧客はギャラリーにとって新規客である可能性が高い。そこからはギャラリーが買い手との関係を構築していくことになる。これらの取り組みにより、サザビーズは大きな需要を生み出した。サザビーズに不足していたのは新たなレベルの需要に応えることだった。
サザビーズは、モナコ、ハンプトン、パームビーチなどでポップアップショーを実施した。これはEC専業ブランドがよくやる手口でもある。
そうしたポップアップで出会った顧客が購買に至らなかったとしても、ギャラリーネットワークを持っていれば、顧客の好みに近い作品を提案できるという。これが、前述した仕組みとコンテンツ。
そうしたネットワークの構築は魅力的ではあるが、摩擦も生じる。アート・バーゼルとの摩擦もそうだが、デジタルプラットフォームの準備の差として現れている。ZwirnerのPlatformも選択肢になりうるが、ライバルである大型ギャラリーとカテゴリーが違うオークションハウスと、どちらのプラットフォームを選ぶべきか。より多くの恩恵を得られるのはどのプラットフォームか、ギャラリーネットワークをホロウィッツがどのようにドライブしていくのか。
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