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旅館アポリア

豊田市の喜楽亭で提示されている旅館アポリア再現展示を見た。

先日、百鬼夜行を見に来たが、旅館アポリアの再現展示まで期間があることを知った。二度も豊田市に足を運ぶことになった。

上のnoteでもリンクを貼っている2019年のあいちトリエンナーレで展示されていた当時の対談がとても参考になる。訪問前に見ておくと、より作品世界に没入できるのではないだろうか。

開館と同時に入ったと思われる人があった。展示はいくつかの部屋にあり、順番に見ていく。一部屋あたり5人の定員なので、前がつかえていると待つことになる。明治後期の木造建築、見事な建物だがとても冷える。靴下は重ね履きしておいた方がいいかもしれない。

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4部屋に6作品の映像が提示されていた。全ての作品を見ると90分程度の時間が必要になる。ただし、待ち時間が無い場合なので時間には余裕をもって出かけるのがいいと思う。

波、風、虚無、子どもたちの4部屋、建物の座敷に座り映像を見る。座布団に座り、映像をやや見上げるような視線になるのは小津安二郎のローアングルに習っているらしい。顔はのっぺらぼうのように塗りつぶされ、明朗ではない声が聞こえてくる。字幕はあるが、全てを読み込むには少し表示が早いかもしれない。

声と音との提示、障子の音に、ここで提示されている意味を知った。

映像は、喜楽亭の女将のインタビュー資料をキュレーターがホーに送ったメールの朗読から始まる。様々な資料が添付されている様子と、膨大なデータの収集、分析、翻訳がなされたことが伺える。こうした作品として昇華したホーは凄いと思うが、リサーチを支えたキュレーターの仕事にも敬意を払いたい。


それぞれの部屋で展開される映像作品は、喜楽亭の女将、喜楽亭にも宿泊した神風特攻隊の草薙隊、京都学派の学者、小津安二郎と横山隆一と展開していく。それぞれの人生を感じるとともに、この戦争は何だったのか、という疑問が沸き立つ。喜楽亭で配布されていたパンフレット、その表に書かれたテキストがリフレインする。

歴史の記録や伝承を丹念にリサーチし、アジア全域にまたがる複雑な物語を織物のように紡ぎ出す。

教科書で学ぶのは時間軸の流れ、それを縦糸とするならば、それぞれの人の物語は横糸だろうか。

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喜楽亭が養蚕業の人々で賑わい、戦時中は軍関係者、戦後は自動車産業に関わる人々で賑わったという。


百鬼夜行をもう一度鑑賞するつもりだったが、次の約束があるため図録だけ購入した。

Voice of Voidのカタログも豊田市美術館においてあった。

旅館アポリアからヴォイス・オブ・ヴォイドへの展開、そこに何があったのか、じっくりと紐解いていきたい。

このカタログにあったと思うが大家益造の「アジアの砂」は名古屋の古書店で見つけたらしい。

いただきましたサポートは美術館訪問や、研究のための書籍購入にあてます。