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源氏名でも発信者情報開示請求ができるか
こんにちは、地方在住弁護士です。
先日書いた、発信者情報開示請求の記事を、
たくさんの方に読んでいただけたようで、嬉しいです。
ところで、発信者情報開示請求をするときに、
この書込みは、自分についての書込みであること、
を特定する必要があるのですが、
名前の一部が、伏せ字(例:「鈴木」を「●木」と書かれる)
であったり、
源氏名やペンネーム
であるような場合、果たしてこの書込みが自分についての書込みなのか
分かりづらいことがありす。
今回は、伏せ字や源氏名の場合でも
発信者情報開示請求ができるようにするにはどうすればいいか
を、キャバクラに勤務する「あい」さんを例に、
書いていきたいと思います。
1 キャバ嬢「あい」さんのケース
【登場人物】
Aさん(本名:鈴木愛):
匿名掲示板の誹謗中傷の被害者、キャバクラ勤務、源氏名は「あい」
Bさん:
Aさんと同じキャバクラに勤務する同僚、Aさんより先輩、源氏名は「かおり」
クラブ爆(ばく):
AさんとBさんが勤務するキャバクラ
【トラブルの発生】
Aさんは、「あい」という源氏名でキャバクラにコンパニオンとして勤務していました。
Aさんは、一生懸命で愛想も良かったため、馴染みのお客さんが日を追うごとに増えていきました。
ある日、先輩のコンパニオンであるBさん(源氏名は「かおり」)が、自分を今まで指名していた顧客が、最近、Aさんを指名するようになったことに腹を立て、Aさんに対して顧客を奪ったと抗議してきました。
しかし、Aさんは気が強いため、Aのさんが顧客を奪ったのではなく、Bさんの顧客が自分の意思で自分を指名するようになったのだ、と言い返しました。
すると、インターネット上の匿名掲示板上にある「クラブ爆」のスレッドに、「あい」さんを誹謗中傷する書込みが、たくさんされるようになりました。
水商売や性風俗のスレッドでは、誹謗中傷する書込みが発生しやすい印象です。
こういったとき、
「あい」さんに関する書込み=Aさんに関する書込み、といえるのか問題になります。
2 電話会社の反論
発信者情報開示請求の裁判では、電話会社は、
名前の一部が伏せ字だったり、源氏名だったりする場合、
被害者の実名が直接書かれている訳ではないので、
誹謗中傷する書込みが、被害者についてのものなのか特定できない
(被害者と書込みを受けた人物が、同一人物かはっきりしない)
と必ずと言っていいほど、反論してきます。
このような主張に反論しなければ、
発信者情報開示請求は認められなくなってしまうため、
こちらも一生懸命、反論していかなければなりません。
3 反論の方法
(1)裁判所の考え方
裁判所は、掲示板に書かれた名前が実名ではなくても、
掲示板に書かれた内容から、
掲示板を見た一般人から見て、
その書込みが被害者の書込みであると読み取ることができれば、
問題の書込みが被害者についての書込みである
と認めてくれる傾向にあります。
つまり、被害者の実名が直接掲示板に書かれていなくても、
書き込まれた内容などから被害者のものだと読み取ることができれば、
被害者についての書込みだと認めてくれる
ということになります。
しかし、上で説明したように裁判所に認められるためには、
電話会社からの反論に対し、こちらも反論しなければなりません。
(2)参考になる裁判例
ア 源氏名(仮名)についての裁判例
源氏名や伏せ字について、次の裁判例が参考になります。
東京地判平成26年3月10日
「実名が記載されていなくとも、記事の記載内容から、当該対象者の属性等について一定の知識、情報を有している者らによって、対象の特定がなされる可能性があり、これらの者から、特定された対象者が不特定多数の第三者に伝播する可能性があれば、名誉毀損における対象者は、十分に特定されていると解される。」
つまり、たとえ源氏名(仮名)が用いられたとしても、
その文脈や本人を示唆する情報等から
一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈して、
特定の人物を指す、と受け止められるようであれば、
特定できることになります。
イ 一般読者の基準
上で説明した「一般読者」という基準について、裁判例は次のように説明しています。
東京高決平成27年2月5日
「一般読者」という基準については、およそ国民一般を指すと考えるのではなく、媒体の性質上、想定される前提知識を持った一般読者であると解されている。
つまり、例えばキャバクラのスレッドの場合、
そういったキャバクラのスレッドを読む前提知識がある人が
読んだ場合に、Aさんの書込みか分かるかどうか、
が基準になる、ということになります。
(3)反論の書き方
ア 源氏名だけでは誰についての書込みか分からない、に対する反論
電話会社から、源氏名で書かれているため、誰のことを書いたか分からない、という反論をされることがあります。
Aさんの例でいうと、
「あい」という源氏名しか書かれておらず、Aさんの書込みかどうか分からない。
という反論が考えられます。
これに対しては、
その源氏名は、その店において、掲示板に書込みがされた時期には、被害者しか使っていなかったこと
つまり、その源氏名を使っているのが、被害者だけだったことを説明するのです。
例えば、Aさんの事案でいうと、
「あい」という源氏名を使用しているコンパニオンは、本件書込みが行われた令和●年●月において、A以外に存在していない。
これは、「あい」という源氏名を使用していたコンパニオンが、本件書込みをされた時、クラブ爆に原告(A)以外にいなかったことを示している。
という感じで書面に書くことになります。
イ 伏せ字なため、誰についての書込みか分からない、に対する反論
電話会社から、名前が伏せ字で書かれているため、誰のことを書いたものか分からない、という反論がされることがあります。
Aさんの例では、
「鈴●」と書かれており、Aさんの本名が記載されている訳ではないため、Aさんの書込みかどうか分からない
といった反論がされることがあります。
これに対しては、
・「鈴木」という名字のコンパニオンは、その店には被害者しかいないこと
もしくは、
・「鈴●」は、「鈴木」を1文字伏せたものだと推測でき、
また、他の書込みの内容から被害者の書込みであると推測できる
と反論します。
Aさんの例では、
クラブ爆では、「鈴木」という名字のコンパニオンは、原告(A)しかいない。
さらに、「鈴●」と一部が伏せ字になっているが、本スレッドのタイトルやスレッドに投稿されている書込みの内容に照らすと「鈴木」と記載していると推測させる。
そのため、本件書込みの中にある「鈴●」という名字の人物は、原告(A)のことを指していると考えられる。
4 まとめ
発信者情報開示請求の裁判では、
電話会社は色々な理由を付けて反論してきます。
反論するのは大変な作業ですが、
あきらめずに地道に反論すれば
裁判所は比較的開示を認めてくれる印象を受けます。
そのため、上で説明したことが、反論の参考になればと思います。
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