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台北に咲いた一瞬のきらめきー自由とは。

この文章は、『台湾対抗文化紀行』(晶文社)を執筆時に、全体の色に合わないと僕が判断して、外した章になります。

異国の地に自由を求めて移動する人々はいつの時代にも多い。隣の芝生は青く見えるものだ。大抵は、どこの土地にもそれぞれの土地の自由さ、不自由さがあり、対してどこも変わらないという結論に達するのだが、僕が台湾に見た自由さも、ひょっとしたらそのたぐいのものなのかもしれない。

台湾に初めて旅立ったとき、僕は確かに日本でなにもかもがうまく行っていなくて、ふと旅した台湾に自分が求める自由を投影して、手を伸ばした。今思うと、そう考えるのが、妥当なのかもしれなかった。でも、僕は、なんとかそこに本当の自由があるのだということをこじつけようとして、取材を進めたのだった。それは、自分がうまくいっていないということを認めたくないということの証左でもあった。そんなことだから、この本を書くことはやがて行き詰まった。一行も書くことができなくなった。

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