【おはなし】失恋墓地 #毎週ショートショートnote

また来たのかい。

欠けてしまった心の破片が持ち主の幻をまとっている。

あんた、まだ若いのに…今回はずいぶん大きく欠けてるじゃないか。

墓地の番人をしている老婆が哀れむような表情で声をかけると、彼女はいつものように力なく笑った。

何でかな…ハハ…。

欠片を引き取らないまま何度もここへ来ると、心が無くなっちまうよ。
その時は肉体ごと墓に入ることになるんだ。
1つ恋を失うと欠けた心を葬るけれど、癒えればちゃんと引き取りに来な。そうすれば力が湧く。時間がかかってもいいんだ。

今度こそ…今度こそはって思って…。

悪い事は言わない。次は誠実な男を選ぶんだよ。そうすれば大切にしてくれる。

幻は自ら欠片を葬り、その周りに意識を残してウロウロしている。

月日が経ち…

あぁ…あの子、引き取りに来ずにまた合わない男を選んだね。欠けちまってもう心も残り少ないだろうに…。

そう老婆が眺める先には、自らの墓に新たに大きな墓穴あなを掘る彼女の幻の姿があった。

(410字)

今週もたらはかにさんの企画に参加させていただきました。
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