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2023シーズンの検証

開幕前の期待感とは裏腹に、スペイン路線開始以来最も苦しいシーズンとなった徳島ヴォルティスの2023年。

今シーズン起こった事象を振り返りながら、何を間違い、何を得て、何を活かしていかなければならないのかを検証していく。


データあれこれ

まずはラバイン体制のデータを振り返っていきたいと思う。

解任される前の第31節時点で6勝15分10敗、33得点、43失点の19位

注目したいのは、まずは先制した試合の勝率
先制した試合は13試合あり、そのうち勝利したのは5試合
勝率は38.5%はJ2では2006年に次ぐ2番目に悪い数字となる。
先制率も41.9%で6番目に低い数字となった。

次に得失点時間帯
得点時間は前半51.5%、後半48.5%と偏りがない
対して失点時間は前半20.9%、後半79.1%と圧倒的に後半に多く失点している。
もう少し細かく見ると、15分×6=90分で区切った時、前半最後の15分+ATが11失点、後半最後の15分+ATが16失点している。
それ以外の時間の失点を全て合わせても16失点なので終了間際に弱いことが明らかである。
一方で前半最初の15分間は1失点もしていない、途中解任なので年間ではないものの、これは史上初である。

次に被シュート数
31試合で310本のシュートを打たれているため、1試合平均ちょうど10本のシュートを浴びていることになる。
昨年が1試合平均7.4本、リカルド時代もだいたい毎年8本代なのでかなり多いことが分かる。
2本くらいの差と聞くと大差ないように感じるが、1試合で2本多く打たれるということは42試合で84本多く打たれるということになる。


ベニャート・ラバイン招聘

「動」のリカルドから「静」のポヤトスへシフトし、3人目のスペイン人監督は再び「動」をチョイスした。
レアル・ソシエダの戦術を仰ぎ、スペイン伝統のティキタカとは違い中央集約型の縦に速いサッカーを採用。

①戦術と戦力の乖離

ラバインが採用したラ・レアル型の4312は選手に高い能力を要求する戦術だった。
攻撃時は大外のレーンにSBしかいないため、攻撃時も守備時もこの能力で優位性を出すことが求められる。
ブロックを敷きにくいためカウンターに晒されるリスクが高くアンカーとCBの守備負担は大きい。
中盤はWGが張っていないためパスの出しどころに困り、中央密集しているため相手のプレッシャーが厳しい中でロストしない技術とパワーが求められるうえ、FWが走ったタイミングでピンポイントのフィードを通す必要がある。

日本の2部クラブの戦力では到底背負いきれないリスクと技術を要する。
スーパーな選手を集められないクラブに必要なのは、システムや戦術に選手をはめ込むのではなく、コンセプトを保った上で今いる選手たちを活かす適切解を見つける力なのではないか。

②前提の見誤り

ラ・レアルでは育成年代からスペイン流のサッカーが染みついた選手たちを中心にメンバーが構成されている。

しかし徳島では毎年選手が入れ替わり、そのたびに初めてスペインサッカーに触れる選手がいる。

スペインと日本では指導するうえでの前提が違うため、日本でいきなりラ・レアルのような伝統的なスペインサッカーを壊した応用をやってしまうと、日本によくあるただのアドリブサッカーが出来上がった。

日本において必要なスペインメソッドとは応用ではなく基本なのではないだろうか。


③監督の実力不足

ラバインはトップチーム監督未経験だったが、徳島の監督に就任するまでのトップチーム監督歴を挙げると
リカルド・ロドリゲス:4クラブ5年
ダニエル・ポヤトス:1クラブ3試合
と、リカルドもそこまで多くないが、ポヤトスに関しては3試合のみなのでラバインとほとんど変わらないことが分かる。
ではどこに違いがあるのだろうか

1つ大きな違いがあるとすれば育成年代での監督経験だろう。
ポヤトスは2008年にエスパニョールU-15を指導して以降8チームで9年間の指導歴がある。
途中でアナリストやコーチが2年あるが、それ以外はずっと監督業を行っている。

対してラバインは育成年代の監督歴が2チームで2年のみ。
最後に指揮したのは2015年で徳島の監督に就任するまでの間8年のブランクが存在する。
キャリアのほとんどがアナリストかコーチである。

育成年代とはいえ監督という立場の経験値の差が結果に顕著に表れたのではないかと考えられる。


オフシーズンのチーム編成

2023シーズン開幕前に書いたストーブリーグの感想記事を見返してみたい。

ここにネガティブな点として
①監督の経験不足
②右SBの不足
③アンカーの未補強
の3つを挙げたが、残念なことに3つとも予想を大幅に上回るレベルで影響を及ぼした。

右サイドバックの不足に関しては、ただでさえエウシーニョが年齢的にフル稼働が難しいことに加え、怪我で前半戦はほとんど試合に出られなかった。
これによりSBの負担が大きい戦術と相まって機能不全をもたらしたうえに3CBへの変更を余儀なくされた。

アンカーの未補強に関しては、守備負担の重さにより白井以外のアンカー起用が難しく、白井は縦へのパスとビルドアップで物足りなさを見せた。

クラブの方向性を考えるとアンカーは間違いなく最重要ポジションである。
最もお金をかけるべきポジションを若手や非保持型のクラブから来た白井だけで解決しようとした見積は甘かった。
夏に永木を獲得したが、オフシーズンの時点で岩尾の穴埋めをそれくらい深刻に考えるべきだった。

杉森やエウシーニョ、ケサダ、カカ、内田をはじめ怪我人が多い不運も重なり外国籍選手の稼働率が低かったことは同情するが、シーズン前の時点で想定出来た編成の不備も少なからずあった。

今季の補強方針を読み取ると「質」というテーマが見えた。
2022年は失点がかなり少なかった一方得点数が少なく、ラスト1/4の質が課題となった。
この点に関しては昨年に限ったことではなくリカルド時代から支配して押し込んでいるものの点が取れないという試合は多かった。
2023年はそこを解決すべく前線に森海渡や柿谷などシュートや技術で違いを見せられるタレントを獲得した。
しかしそこに偏った結果、本来必要とさせる強度やハードワークが不足し、そもそもチームとしての機能を失ってしまった。
質を加えるという挑戦自体は良いチャレンジだと言えるが、結果的には失敗に終わった。
来季は本来あるべきチームの姿を見つめなおし、編成のバランスを整えることが必要となって来るだろう。

育成ベースという考え方は良いが、戦力と育成のバランスは考えなければ育成にも悪影響を及ぼす。

例えばカカが夏にブラジルへ移籍した。
カカは能力もポテンシャルも申し分なく、上手く育てば市場価値を上げて売却できた可能性もあったがそうはいかなかった。
ポテンシャルはあれどカカも若手の年齢で、本来はベテランに支えられるべき立場のはずだが、守備やビルドアップでカカに大きな負担を強いることも多かった。
ミスをするとプレーが荒れてくるなどメンタル面では未成熟な部分もあり、今季は特に消極的なプレーが多く自信を失っているように見えたのでブラジルに帰る選択は賛成でできた。

育成と戦力のバランスという話に戻すと、外国籍選手は育成を考えず戦力的な面を重要視した補強をすべきではないだろうか。
特にCBなどプレッシャーのかかるポジションは初めて異国でプレーする若手には荷が重すぎる。
監督に経験のない人を呼んでくるのなら、なおさら編成面での援護射撃を充実させてあげるべきだった、監督の戦術が問題なく遂行できるくらいには。

近年はJ2から直接海外へ移籍する選手も出始め、個人昇格の速度も上がっている。
2017年ごろには獲れていた選手が獲れないといったことが起き始めているのはサポーターから見ても明らかだ。
他クラブで結果を残した有望な若手中心の構成は難しくなってきている。
永木のようなJ1で出場機会を失っている実力者や数年前に個人昇格した選手は戦力維持に重要となって来るだろう。
そうした市場の変化に強化部が乗り遅れては編成で他クラブに後れを取ってしまうだろう。


監督の采配

ラバイン監督の采配からは経験不足を感じさせる判断は多かった。
それは対応力に大きく表れていたと感じる。

後半に失点が多いことは先述したが、試合中の対応で後手に回ることが多かった。
相手の修正に対して効果的な策を打てずサンドバッグになる時間帯が多いことは被シュート数にも表れている。
先制後に守り切るためのカードをベンチに置いてない試合もあった。

第2節から浜下をSBにしている時点でSBが足りていないのは明らかだったが、3CBに変える決断まで10試合かかった。
3CBに変更後は一度自分のプランが崩れたからなのか消極的な采配が目立ち、3142も対策されると白星が奪えなくなった。
攻守両面で基準を満たせるアンカーがいないことも問題だったが、2ボランチに変更するまで29試合を要した。
エウシーニョ復帰後も4バックにするまで3試合かかり、メンバーに対する最適化など変更を行うまで時間がかかる印象。

対応力の低さが長い未勝利期間を生み、開幕から11試合未勝利、後半戦開始から10試合未勝利と、同シーズン中に2桁未勝利が2回もあった。

これは良し悪しではないが、アナリストとしての側面を垣間見えたのが、監督は各選手のキャラクターや役割をはっきり自分の中に持っているのだろうと感じた。
どういうことかというと、システム変更のタイミングでメンバーがはっきり変わることがしばしばあった。
例えば3142に変更後それまで出場機会の少なかった森海渡がスタメンで起用され始たり、4231に変更後ずっとベンチ外だった櫻井がいきなりスタメンに名を連ねたりするなど。

良くも悪くも、自分の持っている戦術にマッチするタイプの選手が必要以上の実力を持っていないと勝てるチームにはならないのだろうと感じた。


監督交代

徳島ヴォルティスがシーズン途中に監督を解任することは稀であり、2006年以来2度目である。
今回は31試合目終了後、残り11試合というタイミングで監督交代が行われた。

解任された直前の山口戦は勝利しているのでこの試合がトリガーだとは考えづらい。
一時期勝っていた3142の問題を解決すべく、山口戦の2試合前に徳島はシステムを4231に変更している。
4231変更後は3試合で7得点と点は取れていたが、2試合ともドローに終わっている。
千葉戦では2点リードを追いつかれドロー、栃木戦では1人少ない相手に一時逆転を許した。
システム変更で一部の問題は解決できても根本的な問題は解決できず、3142の時みたいにまた相手に対策されて勝てなくなるのであれば、残留に向けて監督を変えるという判断は理解できる。
山口戦の勝利は人事に影響しなかったのだろう。

このタイミングでの監督交代は賛成出来るものの、では最適なタイミングだったのかと言われれば疑問が残る。

7月に行われたサポーターズカンファレンスで岡田強化本部長がこのようなコメントをしている

「プレシーズンに監督が代わりまして、プレシーズンから長崎戦までどういうふうに取り組んできたかというところで言いますと、世界のサッカーのトレンドでは1つのスタイルでは勝てないと分析しました。」

10試合が終了した時点で、シーズン前に目指していたスタイルでは無理だということが分かったと明言しているのである。

更にこう続く

「いろいろなことに順応していくことが必要であろうということを分析した中で、序盤戦では昨シーズンの攻守に静的な安定したスタイルというのをベースに、さらに状況に応じた攻守においてダイナミックなスタイルを足していこうということで話し合って進めてきました。」

昨シーズンのやり方をベースにして、その上にラバインのやり方を乗せていくという道筋を定めたと言及している。

要するに、ラバインの目指すやり方では無理だと分かったうえで、監督を変えず他人(ポヤトス)の方法論をベースにラバインのアイデアを足してください。
ということを言っている。

リカルドの時もポヤトスの時も、監督の理想形をクラブの目指す形として積み上げを行い、チームとしての完成度を上げてきた。
しかしラバインの理想形をクラブとして目指さないのに監督の続投を決めた時点で誰が完成形を描けていたというのだろうか。

よく即効的な結果が出ない監督の勝てない時期を「我慢」という言葉で語られるが、ただ監督を解任しない事を我慢というのではない。
クラブとして目指す完成形が明確に見えており、それを目指せる監督がいて、理想形を完成させるために目前の結果より内容を優先させて積み上げを行うからこそ我慢する価値がある。

2023シーズンはどうだっただろう
監督の目指すサッカーであるソシエダ式の4312を捨て、前任者の方法論に頼って延命した時点で積み上げなんてなくなってしまっている。
10試合終了時点でこのチームは我慢する価値のないチームになってしまったのだ。

監督解任という選択肢があるなら、適切なタイミングは第10節終了時点だった。

というのが結果論。

結果論です。

実際に10試合終了時点で首を切れるかと言われれば難しいのではないかと感じる。
リカルドも勝てない時期はあったし、ポヤトスも昨年の前半は今年ほどではないとはいえほとんど勝てなかった。
前任者2人より見ていて明らかに監督としての技量は低いと感じつつも、前任者の例を考えれば後半戦巻き返してくれるのではないかと期待して続投するのは理解できる。
実際3142に変更後は勝ち始めた。

ソシエダ式が失敗した時点で今シーズンの我々のチャレンジは敗北した。
早々に監督を変えて上位に食い込んだとしても、たとえ昇格したとしても今季のチャレンジが失敗したことには変わりない。
即興と運での成功は何も残らない。

その時点で遅すぎも何もないのだ。

推移を見守ることが今後につながるのなら、残留争いギリギリまで続投させたのは決して悪い判断ではない。
シーズン途中で新たな野心あるチャレンジと言えるだけの監督を連れてこられるなら10試合終了時点での解任がベストだったとはいえ、それを用意するのが難しいなら小手先の人事で多少順位を上げるだけよりも意味はあると考えられる。
どっちにしろ昇格に届かないのであれば。

後は残留というドローに持ち込むことが全てだ。
11試合残して残留圏内なら、そこから残留に全振りするには十分だろう。
残留争いに全振りせざるを得ないギリギリまで今季のチャレンジを全うしたことが来期以降に価値を持つならそれでいい。

吉田達磨新監督就任会見で解任理由を聞かれた岡田強化本部長は、このままやっていて成長し続けられるか疑問があったと答えている。
やはり来季やもっと先を見据えると、完成形を見失い何も積み上げれられていない現状では厳しいと判断したのだろう。
そのうえで、技量に疑問がありつつも知識は持っている若手監督が、やり方を変化させつつも続投させればどういうアイデアと結末が生まれるのかは十分見極められたと言える。

そのままラバインをシーズン終了まで引っ張ることもできたと思うが、出場機会の少ない選手のモチベーションを上げ競争を再燃させるという意味で監督交代は一定の意味を持つ。

とりあえず解任して暫定監督で引っ張り、新監督が見つからずなし崩し的に暫定監督が正式就任という流れはよく見る光景なので、すぐに新任を用意できる準備が出来ている点は評価できるのではないのだろうか。


監督交代後

・選任 (監督交代直後に記入)

ラバイン解任と同時に吉田達磨新監督の就任が発表された。
ここでは新監督の人選が妥当だったのかという点を見ていきたい。

残留のために招聘する監督の条件としては
・Jリーグでの監督経験
・経験値
・即効性
あたりが挙げられる。
吉田監督については、Jリーグでの監督経験は3クラブ5シーズン、残留争いの経験値については2017年甲府で経験しておりその時はJ1から降格している。
残り11試合をトーナメント的な感覚で考えるなら天皇杯優勝の経験値というのも考慮できる。
即効性については期待できる監督とは言えないだろが、クラブの編成上即効性のある堅守スタイルにしても結果が出るとは言えないため、保持志向の監督を選んだのは必ずしも間違いではない。
近年はスペイン人監督が続いていたが、この状況を考えると日本での経験値を考慮すれば日本人を選択したのは妥当だろう。
その他岡田強化本部長と元々知り合いだった点や、柏レイソルU-15時代に白井を指導しており、山下や森海渡もアカデミーダイレクター時代に知っている可能性があるという点はプラス要素となる。

就任会見の受け答えは納得感があり、クラブへの認識も正しいと感じた。
具体的には、徳島という地域とクラブの規模感、クラブの方向性と選手編成。
オファーの前から今季の試合を結構見ていたというのも理解の部分ではプラスになる。
クラブがポゼッション志向でそれを基準に選手を集めているため、守備を固めて堅守速攻のようにするのは向かないというのもその通りである。

とはいえ知識や人間性と、監督としての技量は全く別物であるということはラバインが証明済みだ。
過去全てのシーズンを2桁順位で終えており、勝ち越したことはない。
全体的に妥当性を感じる人選ではあったものの、過去リーグ戦で良い成績を残したことのない人物をこのタイミングで招聘したという不安点は拭いきれない部分だった。
解任直近3試合で複数得点を挙げ直前の試合で勝利していることを考えれば、監督交代にネガティブな印象を与える人選だったと言わざるを得ない。

・采配 (シーズン終了後追記)

システムはラバインが最後の試合で勝利した4231を継承。
試合途中から3421に変更というパターンを多用。

残留という目標に向けてまずは守備を整理し、安定感のある試合運びが出来るよう奪いに行くところブロックを敷くところを微調整するなど行った。
石尾を右SBで起用したり、杉本をトップ下で起用するなど、ラバインの時より守備で力を発揮できる選手起用を感じた。

カードの切り方も納得感があり、見ていて変えた方が良さそうだと感じるところを適切に修正していた。

最初の4試合を2勝2分
その後、下位相手に連敗を喫したのは良くなかったが、守備の安定とポゼッションを両立させるとどうしても得点が遠くなる。
そうなるとミスやセットプレーで簡単に先制点を渡せばウノゼロで逃げ切られるというのは起こり得る。
しかし次の試合では上位の山形相手に勝ち切れた。
中断明けに2位磐田相手に大敗したものの、20本以上のシュートを放ち攻撃面でしっかり修正していたことは評価できる。
結果的に自動昇格する残り試合で最上位の相手ということもあり、互いのチーム状況的に普通にやれば負ける相手に内容で特徴を見せられたのはポジティブだった。
とはいえ大敗とはなったのでリスクを抑えた戦い方に戻すした次の試合で上位長崎相手に勝ち切ったため、前節の敗戦はチャラでいいのだ。
この時点で残留が確定した。
下位より上位相手の方が勝点を稼いでいるのは予想外(いやむしろ達磨っぽい)かもしれないが、全て勝つことが目的じゃない残留争いにおいて上手く勝点を稼いだと言える。

・総評 (シーズン終了後追記)

結論から言えば監督交代は成功となった。

残留を目指すクラブにおいてラスト11試合で4勝4分け3敗という成績は十分すぎると言っても良い。

終盤大宮が追い上げを見せたことで焦燥感もあったが、結果的には第34節終了時点(就任3試合目)で大宮の最終勝点を超えたので、就任後3試合を2勝1分で駆け抜けたことが大きかったと言える。

下表はラバイン監督と吉田達磨監督の成績である

勝率、平均獲得勝ち点、1試合平均失点と3つの項目で数字を上げている一方、1試合平均得点のみは下がっている。
吉田監督は保持型のチームを維持しつつ、上手く残留争いを戦えるチームに変化させたことが分かる。

何よりも残留の為に招聘した監督に、残留を達成したという事実以下の評価は野暮なのだ。
そもそも元々時間のかかるスタイルを標榜しているのに、残り11試合で最悪な状況のチームを任された監督に結果も内容も出せというのはふざけている。

もちろん仮に来季続投するならば、残留に向けた今年と昇格に向けた来季では評価基準が異なるため、同じ評価は出来ない。
昇格を目指すというものさしで今季を見るのは間違いだし、残留を目指すというものさしで来季を見るのも適切な評価にはならない。
実際、吉田監督は就任時の記者会見で
「何かを変えようとか、こういうものを持ち込もうとかという事は基本的には1つも考えていません。残り11試合で今現在いる選手達を1つにまとめる。1つにまとめるというのはサッカーの方向性です。」
と述べている。
なので当然今季の残留にとっては良かった戦い方をそのまま来季もやることは、必ずしも同じ評価にはならない。

来季のことは分からないがひとまず達磨さん、徳島ヴォルティスを助けてくれてありがとう。

最終成績

2023シーズンの徳島ヴォルティスはJ2リーグで15位という順位に終わった。
Jリーグ全体の順位としては33位
これは2008年、2012年と並びクラブワーストタイである。
よくこのnoteでは徳島ヴォルティスは30番目のJリーグクラブであるからデフォルトの順位は30位という話をするが、今季はその30位を下回った。
徳島が30位を下回るのは2015年以来6回目である。

成績は10勝19分13敗 43得点53失点
勝率は23.8%で、J2では歴代で下から4番目
1試合あたりの平均得点は1.02点でJ2では歴代で下から5番目に少ない
1試合あたりの平均失点は1.26点でJ2では歴代で下から6番目に多い
1試合あたりの平均被シュート数は10.3本でJ2では歴代で7番目に多かった。(二桁を超えたのはJ2では2013年以来)

先制した試合の勝率は47.1%で歴代ワースト1位
先制された試合の勝率は10.5%で歴代9位タイ

得点時間帯
前半:後半=51.2%:48.8%
失点時間帯
前半:後半=26.4%:73.6%
失点時間帯の後半73.6%は歴代で最も偏っている

平均入場者数は5,976人で歴代2位、J2のみに限れば歴代1位の多さだった。
リーグ平均との差は-928人で、歴代3番目に差が少なかった。


結末

これまでの幅を取りピッチを広く使うサッカーから転換し、スペインでも最先端のソシエダ式にチャレンジしたシーズンは大失敗に終わったと言って差し支えない。
選手補強面、監督人事を含めたチームの方向性、2つのチャレンジどちらにも敗れたことが今季の低迷の要因と言える。
しかし岡田さんのチャレンジは決して否定されるべきものではない。
あくまでこれは結果論である。
2人連続で連れてきた日本経験のない外国籍監督がJ1クラブに引き抜かれたのに、1度の失敗で辞任を要求される筋合いはない。
日本のどのクラブも通っていない獣道を進むなかで、クラブフロントもサポーターも多くの知見を得たことは間違いないだろう。
このクラブはチャレンジすることで多くのものを掴み取ってきたのだから、結果論での批判はナンセンスだ。

今季は少し速く歩こうとしすぎたが、もう一度改めて徳島ヴォルティスというクラブに向き合い、歩く速度を見つめなおそう。
先を急ぐには、この道はあまりにも長い。

来シーズンのことはまだわからないが、今年の経験は確実に未来へ生きる。
岡田さんの新しいチャレンジを私は心待ちにしている。


解任時にラバインが残したコメントが印象に残っている。

「私は自分が何者であるかを考えここに来ました。
そして、自分が何者であるかを知ってここを去ります。監督として。」

監督になるため徳島へ来て、監督として徳島を去る。
監督になる前より正確に自分の大きさを知れたけど、それは思い描いていた姿より何倍も小さかった。

知れば知るほど自分が無知だと思い知らされていくことや、出来ることが増えていくほど自分が何も出来ないと思い知らされていくこと。
そういったことはサッカーの監督に限らず、多かれ少なかれ全ての人が直面するグレートウォールだ。

それを直視することから逃げず、一つ一つ地道に学び続けた者の元にだけ成功はやって来る。

選手からの信頼感を見てもラバインという人間の人格を疑う者はいないだろう。
解任コメントではクラブを称え、選手を称え、サポーターを称え、地域を、文化を称えている。
そして今年嫌というほど浴びた現実を直視し、向き合うことから逃げていない。
それは誰にでもできることではない。
だからこそ勝ちたかった。徳島で。ラバインと。

徳島とラバインの1年間は悔しく、悲しい結末となってしまった。
しかし恨みなんてものは一切ない。
筆者はベニャート・ラバインの未来を、成功を心の底から願っているし、信じている。
そしてまたどこかで巡り合えることを―。




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