2016年5月のこと。~BABYMETALに嵌まった~
(この記事は過去に別のブログサイトで公開したものです)
2016年4月の後半を、僕は『METAL RESISTANCE』を聴き、『Live at Budokan:Red Night&Black Night』のブルーレイとYoutubeの公式動画を一通り観て過ごしました。5月に入った頃に僕がBABYMETALに対して強く感じていたのは、(楽曲や演奏の素晴らしさはもちろん)知的好奇心を刺激されるということでした。設定が練られているし、プロジェクトとしてとても興味深い。仕掛けている人は相当クセモノだろうし面白い人物だろう。演者に対してのリスペクトが感じられるのも好ましい…。2016年5月1日にはSNSにこんな事を書いています。
どうやらBABYMETALの外郭がどんなものなのか、うっすらと理解し始めていたようです。ただ、どちらかと言えば「周りの大人たち」から先に興味の対象となっていき、核である3人の少女たちの正体はよく分からないままでした。Amazonの注文履歴を見ると4月30日に別冊カドカワ Direct04 BABYMETALをオーダーし、5月に入ってからクイックジャパンとぴあMUSIC COMPLEXのいずれもBABYMETAL特集号を購入しています。とにかく3人のことを知らなければならないと思っていました。
アルバムを聴きミュージックビデオを観て、武道館の映像を観ても尚且つ3人のことがよく分からなかったのは、目にしている凄まじいパフォーマンスと、どの方向から見ても “可愛い” としか言いようのないルックスを持った10代半ばの女の子たちがなかなか自分の中で繋がらなかったという事だったのかも知れません。今にして思えば恥ずかしいというしかないのですが、僕には30年近くに渡ってジャンルや国籍、新旧に囚われず多様な音楽を聴いてきたという自負がありました。それが邪魔をして、BABYMETALのことを全体的には「良い」と確信しながら、その中心で歌い踊っている3人の少女たちを無条件に受け入れることができなかったのです 。彼女たちの存在が、築いてきた価値観の壁の外側にあった為に。
ウェンブリーでのコンサート開催を受けたタイミングで、5月に入ると幾つかのBABYMETAL関連の番組が放送されました。僕は5月4日の『BABYMETAL Road to WEMBLEY』(WOWOW)と5月7日に放送された『BABYMETAL革命・完全版 ~少女たちは世界と戦う~』(NHK)を録画しました。BABYMETALは5月4日のニューヨークを皮切りにワールドツアーをスタートさせていました。ハウス・オブ・ブルースやフィルモアなど自分にとって聞き馴染みのあるライブハウスで公演が予定されてたことには少なからずワクワクし、この頃には “ファンカム” の存在も知ることができました。ネット上でライブを観たファンの声を拾い、粗いファンカムの映像をチェックし。ああ、BABYMETALはアメリカでも充分に受け入れらているんだな…というタイミングで、録画してあった番組のうち『BABYMETAL革命・完全版 ~少女たちは世界と戦う~』を観る事にしたのでした。
雑誌で3人の言葉を活字として読んだり、TV番組で声を実際に聞くことが必要だと強く感じていました。それによってやっとBABYMETALというものが自分の中に実像として取り込まれるような気がしていました。『BABYMETAL革命・完全版』はNHKというドキュメンタリーに強い局が作成し、スタジオライブの映像と3人へのインタビューを存分にフィーチュアした番組でした。至近距離から3人の表情や指先の動きをしっかりと捉えたライブ映像はエキサイティングで、ポップな演出を拝した重厚な作りも好ましく、マーティ・フリードマンによるインタビューは感動的ですらありました。
特に惹かれたのはインタビューの映像です。そこに映っていたSU- METAL、YUIMETAL、MOAMETALは決してお仕着せを着せられているようには見えず、語られる言葉は自信と確信に満ちていました。18歳と16歳では咀嚼しきれないような(と、当時の僕は凝り固まった頭で勝手に決めつけていました)濃密な経験について問われた彼女たちは、自分で考え、その場凌ぎの言葉を言わず、なお好奇心と向上心を表しながら、しかも礼節と可憐さを見せて全ての問いに答えていました。僕が知りたかった多くがそこにあったような気がしました。
『BABYMETAL革命・完全版』を観てはっきりと感じたのはBABYMETALの3人が決して操り人形などではないこと。そして彼女たちは「信用できる」という事でした。これも今思えば随分と上から目線なんですが、くだらない自負から産まれた卑しいプライドを納得させるのに、そういう立場を無理矢理とっていたのでしょう。とにかくこの番組を観て、“頭” では3人の存在を受け入れることができました。そして一度受け入れてしまうとBABYMETALへの興味はどんどん増していくばかりでした。
5月25日、Amazonで『 METAL RESISTANCE』の初回生産限定版を購入しました。レビューを読んで、「METROCK 2015」の映像をどうしても観てみたくなったのです。土曜日の午前中に商品を受け取り、家族のいる部屋から移動してPCのモニタでメトロックの映像を観ました。観終わって、僕は異様に興奮していました。これはついに始まったぞ。と、声に出して呟いた記憶があります。それまで我慢していたものが堰を切って溢れ出してきたような感覚でした。間違いない、これは凄いものだ。凄いのは明らかだし、確かなものだ。武道館のシアトリカルな演出は確かに素晴らしかったのですが、どちらかと言えばストレートなロックミュージックで育ってきた自分にとってはなじみ深いものではありませんでした。しかし、ロックフェスの日中の時間帯、短いながらもテンション最高潮の壮絶な演奏をぶちかましたこのライブ映像は、僕がよく知っている「ロックバンドが無敵だった時代」のような空気を持っていました。自分でもいささか大げさだとは思いますが、この40分弱のライブ映像が僕に与えてくれた興奮は、例えば、ボブ・ディランが「お前はウソつきだ」と吐き捨ててから爆音で「Like A Rolling Stone」を演奏した時。オールマン・ブラザーズ・バンドが22分53秒の「Whipping Post」のアウトロから続けて30分を超える「Mountain Jam」を始めた瞬間。或いは高校生の頃、ブラウン管の向こうにジミ・ヘンドリックスがギターに火をつけるのを観た時。そういった歴史的な瞬間の追体験と同種のものでした。自分が最も多感だった時期に、音楽が如何に素晴らしいか、どんなに人の心を動かすか、を教えてくれたロックミュージックの伝説的な演奏に比肩し得る興奮が、はっきりとありました。
神バンドの演奏、SU-METALのヴォーカルは勿論のこと、このライブで僕が驚愕したのは、ダンスです。MVでも武道館でもダンスが素晴らしいというのは素人ながら(ダンスに関しては文字通りのドシロウトです)感じていましたが、このDVDではカメラワークと編集によりその魅力がより一層引き出されているように感じました。言うなればそれは「振り付け」というよりも完全に楽曲の一部であり、ギターソロやリフ、ベースラインや他の楽器のパートと同じ役割があるように思えました。尋常ではない演奏とヴォーカルに、今まで見た事のない様なダンスが完全に一体化してBABYMETALの楽曲が完成するのだという事を改めて認識させられました。僕は5月の3週間程で、最初は頭で、そしてこのメトロックによって肉体的にもBABYMETALに嵌まってしまいました。言うなれば完全服従でした。そしてこの時に、BABYMETALが存在し続ける限り、信じてみよう、追いかけてみよう。と、決心したのでした。これから面白い事が起こり続けるに違いないと確信しながら。
(公開:2018年1月30日)
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