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2019年10月から2020年3月の@onefive

@onefiveというグループ名が初めて公けになったのは、2019年10月15日のこと。今から考えれば、この "15日" という日付はしっかりと狙いすましたものであったし、『さくら学院祭☆2019』まで1週間を切っていたタイミングも計算されたものであった。後に4人が初めてグループのアイデアを聞かされたのは2019年の春であったと明かしていたが(CD『まだ見ぬ世界』収録-「おしゃべりコンテンツ~ちょっと@onefiveとお話していきませんか?」)、「Pinky Promise」の配信リリースと同時に学院祭のステージでデビューする、というアイデアも、チームの中にはかなり以前からあったのではないか。

僕が@onefiveのことを知ったのは、10月16日になってからだったと記憶している。15日の時点では、グループとして最初のSNSであったTwitterアカウントの立ち上げと、ナタリーがリリースしたニュースにはまだ気が付いていなかった。16日の昼間にその情報を目にして、ナタリーの記事からティザー映像を見に行き、すぐにTwitterのアカウントをフォローした。オフィスのトイレに籠って映像を繰り返し観て、その時にはもうほとんど確信していたと思う。

この時点で既に多くの人が指摘していた通り、映像とバックショットの写真には彼女たちが「2019年度 さくら学院中等部3年生の4人」であることを示す要素が幾つもあった。もっとも重要な部分を隠しつつヒントを散りばめるというのはティザー広告としては普通のことだし、それはさくら学院を継続的に見てきているファンにとっては比較的分かり易いものだったと思う。僕自身は上記のツイートの「繋がれた小指」、ティザーの冒頭の声、緑の服の少女の顔の輪郭、ピンクの服の少女の口元、赤い服の少女の顔のアップ(ほくろの位置)、黄色の服の少女が左利きであることとその筆跡…、などから、4人の正体が自分の良く知る "彼女たち" であると確信した。この日から@onefiveのTwitterアカウントでは「Pinky Promise」配信開始までのカウントダウンとしてソロのバックショットなどが少しずつ解禁されていき、そして、『さくら学院祭☆2019』の初日である10月19日を迎えた。

10月19日、KAATの舞台に見た光景と自分の心境、その後のことはブログに詳しく書いている。

藤平華乃、吉田爽葉香、有友緒心、森萌々穂の4人が、それぞれKANO、SOYO、GUMI、MOMOとしてステージに現れた "@onefiveの最初の瞬間" から数十分後、Youtubeで「Pinky Promise」のミュージックヴィデオが公開され、さくら学院の2019年度がまだおよそ5ヶ月を残す中で、@onefiveの活動はスタートした。たくさんの人がスマートフォンでMVを観ながら雑談していたKAATのエントランス、そしてその直後からSNSに流れていた空気は、当然、言葉では表せないほどの喜びと感動に満ちていたが、同時に複雑な感情と戸惑いも少なからずあったように感じた。それには幾つか理由があり、恐らく最も大きかったのは、さくら学院にとって重要な時期となる年度の後半を、中等部3年生のメンバーが別ユニットとの掛け持ちをして大丈夫なのか?という不安だったのではないだろうか。既に6月からはKANO(藤平華乃)がさくら学院の生徒会長とBABYMETALの「アベンジャーズ」としての活動を並行していて、大きな負荷を抱える中、新たなユニットの始動をリスクと捉える人がある程度いたのも仕方がないことだったと思う。

受け手側の勝手な感情として、「卒業まではさくら学院に集中させてほしい」という気持ちも、理解できなくはない。実際に、なぜこの時期のデビューとなったのか、さくら学院の卒業後でもよかったのではないかという声が、僅かながら聞こえてきたりもした。また、そのような状況だったこともあったし、初披露の舞台上で多くが語られることは無かったため、始動はしたもののどのような形で活動をしていくのか分からない、或いはもしかすると期間限定のユニットなのではないか、という弱気な不安もうっすらと漂っていた。


大きな期待とほんのちょっぴりの不安の中で@onefiveはスタートしたが、もちろん、「仲さん」の4人が活動の中心に据えていたのは、あくまでもさくら学院であった。学院祭の2日目にさくら学院にとって初となるクリスマスライブの開催が発表され、2019年度は年内にもう一度大きな波を起こして、年明けから始まる卒業への道を疾走していくのだ、ということを想像させた。一方で@onefiveとしての活動は、SNSでフォトや短い動画を公開することに限定されていたが、MVやスチール撮影時のアザーショット/オフショットとはいえ、それらを受け取るのはファンにとって大きな喜びだった。一つには、さくら学院生としての姿とは衣装もメイクも全く異なる彼女たちを存分に見ることができたこと(しかもその全てが掛け値なしに美しかった)、そして、メンバー自身が撮影したフォトが公開されたこと。更には、そこに添えられる短いテキストをメンバー自身が書いている、ということ。

さくら学院の活動の中では、SNSでのメンバー個人の発信は学院日誌を除けばほとんど見る事ができなかったが、当然スタッフの判断を通したものではあるとはいえ、ちょっとした文章のニュアンスや絵文字の使い方でメンバーの個性を感じ取れる表現を、@onefiveがグループとしてやって行こうという姿勢を見せたことは、僕にとって驚きでもあり非常な喜びでもあった。10月の最後の1週間、@onefiveは活発にTwitterとInstagramでの発信を続けた。まだ分からないことも多かったが、11月に入る頃にはこのユニットの現在地と目指すところが自分なりに見えてきたような気がしていた。

@onefiveに関して、今の活動では本来訴求したいファン層へ向けての認知がなかなか広まらないという見方もありますが、個人的には現時点ではこれで良いと思っています。認知を広げることは重要ですが、せっかくファンを獲得できても今はまだそこにアピールできる素材は限られているし、卒業を控えたさくら学院の活動に加えて高校受験も待っている彼女たちには、なかなか身軽な活動は難しいでしょう。ユニットとしてアミューズのアーティストページに記載がなく、個人のアーティストページにも記載がない現状(2019年11月4日現在)、@onefiveは「プレデビュー」という扱いなのではないかと想像しています。これから3月までの期間で様々なマーケティングもされるでしょうし、本格的なデビューへ向けての検討がされ、卒業後に1アーティストとして本腰を入れた活動が始まるのではないかと考えています。

(『さくら学院のこと。④ ~さくら学院祭2019~』より)


11月2日には、「Pinky Promise」のMVの再生回数が10万回を突破した。初披露の舞台上で、KANOが「@onefiveは皆さんの応援で続いて行くと思うので…」という言葉を口にしていたが、MVの再生回数が彼女たちのスタートラインの基準になるのではないか、と僕は想像していた。もちろん、「○○万回に到達しなかったので、デビューは無しです」みたいな事は起こらなかったとは思うが、チーム内には目標があったと考えるのが自然だろう、と、自分なりに解釈をしていた。

11月からの@onefiveは、Spotifyでメンバーがセレクトしたプレイリストを公開したり、「Pinky Promise」のMVの別バージョンを公開したり…

Instagramではストーリーズの機能を活用してメンバーが発信をする場を増やしたり、「クリスマスフォト」として新たにスタジオ撮影された写真を公開したりしていた。

12月24日、さくら学院は舞浜アンフィシアターで初のクリスマスライブとなる『さくら学院☆2019 ~Happy Xmas~』をおこなった。このライブは観客入場時のオペレーションの不備により開演がおよそ45分遅れ、内容は素晴らしかったものの、ライブ本編はかなりタイトなタイムスケジュールで進められた。一部ではこのライブで披露されるはずであった@onefiveのパフォーマンスがカットされたのではないか、という推測もあったが、僕はこの日の4人の髪型からして@onefiveは元々プログラムには無かったと思っていた(ツインテールやお団子で「Pinky Promise」を踊るとは考えにくかった)。

クリスマスから年末にかけて、@onefiveはLINE MUSICのInstagramアカウントでけん玉チャレンジをしたり、蔵出し写真を公開したりして、ファンたちに年の瀬の小さな幸せを与えてくれていた。そして、2019年最後の投稿には、ハッシュタグを付けて、こんな言葉が添えられていた。

「2020年はどんな年になるだろう」。


2020年1月1日午前0時。さくら学院職員室から、2019年度さくら学院の卒業公演が、2020年3月29日にパシフィコ横浜 国立大ホールで開催されるということが発表された。いよいよ、2019年度の『The Road To Graduation』がスタートするのだ。更に、当時中学三年生であった@onefiveの4人には高校受験というもう一つの大きな節目も待っていた。しばらくは@onefiveとして目立った活動は出来ないだろうが、きっと "史上最強のさくら学院" としての2019年度を完成させ、晴れ晴れとした卒業の式典ののち、華やかな本格デビューを飾ることになるのだろう。この時の僕は、そう信じて疑うことはなかった。

ちなみに、この時期からメンバーがメイクやファッションのポイントを解説動画が投稿されるようになる。メイク、ファッション、ヘアスタイリングといった要素は、この後も@onefiveにとって重要なものになっていく。


1月にはさくら学院の2つの公開授業とBABYMETALの幕張メッセでのライブ(KANOがアベンジャーズとして出演)、そして2月11日にはこの時期の恒例であり、『Road To…』のライブシリーズの幕開けとなるさくら学院のバレンタインライブが赤坂BLITZでおこなわれた。パフォーマンスは力強く、研ぎ澄まされ、彼女たちの揺るぎない自信と共に、更に高みを目指そうという向上心を感じさせるものであった。2019年度さくら学院のパフォーマンスの特徴はアスリート的なフィジカルと多彩な表現力だったのだ、と、今になって改めて感じる。

さくら学院が濃密で充実した時間を体験しながら卒業公演への道を進み、@onefiveが独りで羽ばたき始める時を待っているといった日々の一方で、全世界に広まりつつあった感染症の脅威はモニターの向こう側や閉鎖空間である船舶の中にとどまらず、確かに、自分たちが生活している半径にまで及んでいた。その脅威は2月半ばから加速度的に身近に、目に見えるようになって来ていて、2月下旬以降、ライブイベントが中止・延期になったというニュースが次々と届くようになる。2月26日にはPerfumeのチームが東京ドーム公演の当日中止という判断を下し、翌27日、首相官邸から全国の小中高校に対して3月2日から春休みまでの臨時休校が要請された。そして、2月28日の正午には、卒業公演を除く『The Road To Graduation 2019』のライブ及びイベントの中止が、さくら学院職員室からアナウンスされたのであった。

その報せを聞いた時には、もうほとんど覚悟していた事ではあるものの、やはり絶望感によって身体が地面に沈んでいくような気分だった。何よりも、彼女たち(4人であり、12人の彼女たち)がどんな気持ちでいるのだろうと想像するのは本当につらかった。どこまでも昇っていけるような上昇気流に乗って3月29日を目指していたはずの彼女たちは、その決定を知って突然翼を奪われたような気持になったのではないだろうか。彼女たちに何もしてあげられない自分はなんと無力なのだろう。そんな風に、悲しさと虚しさで暗くなっていた心に光を射してくれたのは、@onefiveだった。

2月29日にGUMIが「涙流す日があれば次には笑顔が待っている」という「Pinky Promise」からの一節を引いて写真を投稿し、その後、他の3人も同じように歌詞を用いながら投稿を続けた。それはまるで僕たちファンと8人の後輩たちに向けたメッセージのようでもあった。

そして、3月3日にKANOが投稿したのを最後に、@onefiveからの発信はしばらくの間途絶え、次にTwitterアカウントが更新されたのは3月30日であった。この間、さくら学院としては3月3日に2019年度のアルバムがリリースされ、3月12日には、卒業公演が5月29日に、加えて一旦は中止とされていた『公開授業 「歌の考古学」』が、5月2日に延期して開催予定と発表された。3月30日、@onefiveの4人は2019年度中等部3年生としてさくら学院のレギュラー生配信番組に出演。そこで、@onefiveの初めてのオリジナルグッズであるキーホルダーの発売と、アミューズのショッピングサイトであるアスマートのフリーペーパーの表紙を飾ること、更に4月下旬に "重大発表" がある、ということが明かされた。

2020年3月31日の時点で、「歌の考古学」とパシフィコ横浜での卒業公演が開催される可能性は、まだ充分に希望を持てるくらいに残っていた。そして、4月が始まれば、@onefiveの4人はさくら学院に籍を残したまま、新たな動きを見せてくれるのだろうと僕は思っていた。

暦の上では、 "2019年度" が終わろうとしていた。



(2021年5月16日)


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