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シーズン2020

7月半ばに店を開けて、9月25日に閉めた。短いシーズンだった。
この状況下で、状況下だからこそ嬉しかったこと、翌シーズンに繋がる希望があって、ちゃんと文字にしようと思った。

●友達が店にいらっしゃって商品をお買い上げしてくれたこと
ザグレブに住む日本人の友達が、島に遊びにきてくれて、店にいらっしゃって、お買い物をしてくれた。おひとり、おひとり、1グループ。この夏だけで。ザグレブからコルチュラ島まで公共交通機関を使って移動するとバスで5時間、さらに船で2時間半かかる。朝出発して夜にようやく到着、丸1日かけてはるばるいらしてくれた。
彼女達が店のものを眺めているのは不思議だった。ザグレブのひとが、わざわざ島まで来て、今お店にいること、ぐにゃり。静かに並べられた商品ひとつひとつを時間をかけて見て回ってくれて、(この時点でもう嬉しい。みんなに届く声の大きさでやってないから、丁寧に拾ってくれて嬉しい。)、可愛い〜とか迷うなあ〜とか声を届けてくれて(もう嬉しい、心の中で踊る、ひらりスカート。自分がいいなって思ったものをいいねって共感してくれて嬉しい。)、

ここわたしの良くないところなんだけど、この時点でもうお腹いっぱいでじゅうぶんで、お買い上げしたいっていうお気持ちに水を差しちゃうことを言っちゃうんだよね、ご好意を受け取ることが苦手だ。ありがとうございます、お気持ちありがたく受け取らせてもらいます、ってちゃんとできるようになろうね。課題。

で、で、で、いろんなものをお買い上げしてくれた。彼女は友達と自分用にTシャツと友達の誕生日プレゼントにカップを時間をかけて選んでて、別の彼女は手書きの値札を褒めてくれてカップふたつとわたしの(!)絵を、別の彼女達はTシャツを5着も買ってくれた後に、やっぱり買いたい絵があるのでって別日にまた足を運んでくれて新しく入荷したばかりの絵を買ってくれた。厚い雲から光が差し込んでる絵で、コルチュラ滞在中によく絵のような景色を見たからって言ってた。

各々彼女達がコルチュラから帰った後も、店に陳列してるピンクのTシャツを見ては連日通ってくれて悩んで悩んで悩んでた彼女を、誕生日を迎えた彼女を、カップを見ては彼女との濃い夏休みを、頻繁に思い出す。

お客さんを少し離れた距離で眺めながら、世界に一つだけの花の二番の歌い出し、困ったように笑いながらずっと迷ってる人がいるってところを噛みしめるようにぐるぐるリピートする。目の前でこの姿を眺められるのは、店舗があって、営業できて、お客さんがいらっしゃってくれたからであって、少しでも短くても今年開けられてよかった。

●日本から友達が買い物してくれたこと
大学卒業以来会ってなかった友達が、結婚する友達にわたしの店から食器を贈りたいって連絡をくれたときこんなありがたいことってあるんだな幸せだなって思った。彼女はいつもわたしの店のことを気にかけてくれて、いいねいいねって応援してくれてたくさん拍手を送ってくれる。
オンラインストアは改修中で、時間を合わせてもらってテレビ電話しながらこの色はどうかな、この組み合わせはどうかなって、届いたときに少しでもイメージのずれがないようにと思いながら画面越しで選んでもらった。陶器はなかなかいいお値段がするから振り切っておすすめするのも躊躇ってるところに、お世話になった方々だから良いものを贈りたいって言ってくれて、ああなんてことだ、ちゃんとお気持ちに応えないととハッとした。日本の友達がお買い上げしてくれたよ、今あなたの陶器は日本の食卓にあるよって陶芸家さんに写真見せたらとても喜んでた。嬉しい。

大学の友達からお皿を買いたいんだけどって連絡が来たときびっくりした。結婚したときいてすごく嬉しくてクロアチアから何かお祝い贈りたいなぁって思ってたときだった。取り扱ってる商品の全体写真を送ったらこれとこれとって一番大きなお皿に丸がついててにこにこした。ピンクのカップふたつを使ってるところを想像してはにこにこした。店にあったものが海を越えて遠く離れた友達のところに迎えられることが嬉しかった。店を気にかけてくれて、わざわざ連絡くれて、観光客がぐんと減った9月のすりきれかけの日々の中でそのお気持ちにぐんと救われた。

インスタとツイッターでは繋がっていたけど久しく会ってない高校の友達から、陶器ほしいんだけどどうしたらいいかなって連絡が来たときこれまたびっくりした。東京事変の話をしたり一緒にライブに行ったり何年も前のことが一気に蘇ってきた。巨大なエメラルドグリーンのボウル、オレンジ色で筒の形をした花瓶、あずき色の一番どっしりした花瓶、彼女の選ぶものは独特でやりとりをしながら新鮮な気持ちだった。彼女は彼女のまま変わってなくて嬉しかった。

●ガイドさんが観光客を連れてきてくれたこと
夏休みが終わると同時にコロナ感染拡大で人々は潮を引くように自国へ帰っていき、シーズン終わり感漂う9月。店を開けてもめったに誰も通らないという閑散とした中で、コルチュラ在住のガイドさんが店に観光客を連れて来てくれた。これがまたプロフェッショナルで、商品のストーリーを、裏話を、わたしたちの代わりに伝えてくれた。彼女は堂々と自信たっぷりで、説得力があって、同じ内容の話でも相手への響き方がまるで違う。心の中で拍手喝采、ブラボー。
冬の営業についてアドバイスをくれたり、新しい企画のアイディアを話してくれたり、小さな島の小さな街の中でこれから彼女と関われるのがすごく嬉しいしワクワクする。

●クロアチアの人が来てくれるようになったこと
海外の海にでかけてた層が今年はコルチュラ島に泳ぎにきてくれたのか、クロアチア国内からのお客さんが体感的にだけど多かった気がする。わたしはクロアチア語が話せなそうな見た目だからたいていのクロアチアの人は英語で話しかけてくれるんだけど、たまにクロアチア語でガンガン話しかけてくれる人もいて、それはそれで嬉しくて、拙いクロアチア語で接客できるとすごく嬉しい。もっと精進せねばと引き締まる。
あとはたまに地元の人がお買い物にいらしてくれるときもあって、どこから情報届いたのかな、ありがたいなって気持ちになる。観光客だけじゃなくて、クロアチアの人、地元の人に向けてもう少しやっていきたいんだよね。冬も完全に閉めるんじゃなくて、少し街に開いてときどき掃除して細く長くやれたらいいな。シーズンに限定されないで営業できたら理想。

新たに取り扱いはじめた商品が売れ行き好調だったり、店を開けてない時間帯にショーウィンドウをみてわざわざ電話くれてお買い上げしてくれたお客さんがいたり、良かったことを思い返せば希望がわく。シーズン2020、いったん一区切り。

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