カタコト1

何もしていないわけでは無いが、気がつくともう秋だった。

確か私が最初にここに来てから半年が経っている。
季節は二つ進んでいる。

時が経つのを悪いこととは思わない、けど、少しもどかしい。
よく10月頃から「もう一年終わっちゃうんだねー」とか、「もう3月とかこの前お正月だったのに早いねー」だの言う人がいる。
時間の流れ方は人それぞれで、そういう感想をもっても悪いわけじゃない。けど自分はなんだかそんなふうに考えたらとてももったいない気がする。
自分の持っているあと二ヶ月を一言で、一瞬で、終わらせるなんて、なんともったいないことか。せっかくの自分の時間を放棄しているようなものではないか。

自分の時間軸は確かに自分だけのものだけれど、きっと有限なものだから、無駄にしたくない。
そういう考えを持ったのも、ここに来てからだ。
人生は無限だ、生きている限り、どこまでも。
だけど今というときは有限だから、今をお気楽に生きてばかりではいけない。

今自分は限られた時間を生きている。
それは、他人に決められた時間かもしれない、けど、僕の時間だ。

だから、僕は彼女に声を掛けた。

それは、声を掛けやすかったからじゃない、彼女と目があったからじゃない。
自分がただ、声を掛けてみたかった。
あくまで自分のエゴ。
自分の時間を自分でコーディネートするエゴイズムだ。

季節二つ分、ちょっとゆっくり過ごしすぎたかしれない。

言い訳をすればいくらでも理屈はつけられるけど、やっぱりこれは自分の甘えだ。今までと違う環境だから、最初は様子見でという甘え。あまあまの甘納豆だ。

クールな留学生を気取りすぎていたかもしれない。もちろんそうじゃないということはないのだが、本来の自分はもう少しアツイ男な気がする。ここからは自分の持っている時間という燃料を、余すことなく燃やし尽くしたい。そこから何が生まれるかはわからないけど、なにかやれることをやってみたい。

そんな暑すぎる意志がばれてしまわないように、そっと本に目を落とした。そうあくまで、ハートは熱く、対応はクールに、だ。