文月悠光「洗礼ダイアリー」

名前はずっと知っていた
最年少で賞を受賞した詩人という新聞記事はあまりに衝撃的だった

当時自分は詩を書き始めていた頃のような気がする

「すごい人がいるなぁ」と
海の向こうを見るような気持ちだったことを覚えている

――それから

いくら歩いても 眩しさと同時に影も濃くなって
喜びが増えた分 痛みも深くなった

詩集を何冊か出版して
自分は詩を書く人ではなくて 詩人なんだなって 思うようになって

自分が信じた言葉は 決して間違っていなかったのだと
受け取った人が 教えてくれた

そうして出会った 詩人の物語

海の向こうにいる どこか遠い人の理想ではなく
きっと同じ思いを持って どこかで戦っている
同じ風景を見た人なのだと 思った

同志と言うには 大げさかもしれない
仲間と言うほどの ものではないかもしれない
でも、ちゃんと そういう人がいるんだって 安心した

詩人という生き物は 言葉にならないものを背負うから
きっと わけ隔てられることのない世界で 息をするのだろう

人から見たら なんだか子供みたいで 可笑しくて 滑稽で
時には呆れるかもしれないし 世間知らずって 責めるかもしれなくて

圧倒的な孤独感と 触れるか触れないかの微かな温度差で
言葉にしたもので この世界と繋がれるのなら

それはきっと 救いのように 眩しかったから

言葉に恋をしたように
言葉というものが生きているこの世界が とても 愛しいのだと 思う

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