「魂の揺り籠」 終わりと始まりについて Ⅸ





before


失うことが怖かった
誰かのくれた優しさが いつ消えるのかも 分からなかったから

いつも恐怖の波が押し寄せていたから
束の間の穏やかな気持すら 突然消え去ると思うと 震えていた

心の中に嵐が吹き荒れ―荒れ狂う激流の中で
縮こまることしかできなかった

胸を押さえた
握りしめたのは―護りたかったから
無力な心臓―この心を

子どもなのが―いけないんだ…
無力だから―いけないんだ…
自分のことさえ―護ることができないんだ…
そう――思った

だから早く大人になりたかった
大人になりさえすれば
自分の手でこんな世界を変えることができる
ここから抜け出せさえすれば 世界は変わる
そしたらきっと 幸せに生きていける

それだけが 唯一の救いに思えて
それだけが 唯一つの生き延びる方法だと信じて
そのために 独りで生きていこうと歩み出す
それだけが 生きる唯一の希望だったから

大人になっても現実は変わらなかった
何も―変わらなかった…

呆然と広漠な土地に佇むように放心する

受けた傷は 心を日々思い悩ませる
時間を経ても 何も変わらなかった

変わらなかったのは 心の世界そのものだった
救いは心の奥底にしかなかった…

心の暗闇――それは虚無
だから救いさえも――ここにはない…

この時になって初めて愕然とした目の前が真っ暗になった
過去の在ったこと全てを抱えて
人は生きていくのだと知ったから

触れるのが怖い でも抱きしめたい
この矛盾を―抱えきれない苦しさ
心の中で張り裂け―砕け散りそうな痛みだけ…

自分で―自分をどうにもできない―苦しみ
手の中にいないから―置き去りにされてしまう

これが一生続くと思うと 過去の全てを呪いたくなる
これを絶望と言うのだと――痛みが叫んでいた

between

言い回しをもっとストレートに。

「失うことが怖かった」という一行でスタートを切る。
次に二行にして、その後を三行にして、
終わりを三行、二行、一行、という形でそろえる。
子どもの無力感と大人の絶望を4行でそろえて対にして
握りしめて守っていたそれがそのまま痛みとなって自分を苦しめているという皮肉になっている。各行の構成が対応している。

after

失うことが怖かった

誰かのくれた優しさがいつ消えるのかも分からなかったから
束の間の穏やかな気持すら突然消え去ると思うと震えていた

心の中に嵐が吹き荒れる 激流の中で
縮こまることしかできない中で
胸を押さえ 握りしめたのは 護りたかったから

子どもなのがいけない…
無力だからいけない…
自分のことさえ護ることができない…
そう思っていた

だから早く大人になりたかった
大人になりさえすれば
自分の手でここから抜け出すことができる
そしたらきっと 幸せに生きていける

それだけが希望で
生き延びる方法で
独りで生きていた

大人になっても変わらない現実を目の当たりにした時
広漠な土地に佇むように放心する
受けた傷は 心を日々思い悩ませる

時間を経ても何も変わらなかった…
愕然として 目の前が真っ暗な気がした
過去の在ったこと全てを抱えて 生きていくしかない…

触れるのが怖い でも抱きしめたい
どうしようもない矛盾が 抱えきれない苦しみが
心の中で張り裂け 砕け散りそう

自分で 自分をどうにもできない苦しみが
一生続くと思うと 過去の全てを呪いたくなる

私は人生に 絶望していた

詩人です。出版もしております。マガジンで書籍のご案内もいたしております。頂いたサポートは出版の費用にさせていただきます。