羽海野チカ「ハチミツとクローバー(7)」

――自分を探しに行こうって思った

行けるとこまで
手が届かないなら
近づけばいいんだって 思った

この両足を交互に踏み出して
それだけで 近づいて行けるんだ

それしかないんだ

どこかに「自分」があるって思っていたけれど
そんなものは どこにもなかった

これがぼくだ
なにもないぼくが 食べて 寝て
生きて 笑って泣いて 進んで 生きている
それだけなんだ

だから繋いだ手の温かさが
それだけで生きていけると思ったら
それがすべてなんだ

役に立つのは嬉しいけれど
それがすべてになってしまったら
そこにはもう 自分なんかいない

行きたい場所があるなら
行ってみればいいって 思う

こんなところにいないで
行かない理由を探してなんか いないで

そこで見たもの触れたもの感じたもの
すべて 自分のものになるから

帰ってきたら美味しいものを食べようよ
どんなものに会ったか聞かせてよ
どんなふうに感じたかを教えてよ

君のことを話して

――そんな場所があるんだってことを思い出したくて
ぼくは旅に出たんだ


―――――――

ハチミツとクローバー(6)
https://note.mu/poet_ohno/n/na887a3678f49


ハチミツとクローバ―(8)
https://note.mu/poet_ohno/n/n8e093aec347f?magazine_key=mf112a52f1a27

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