18頁 「旅がくれた小さな奇跡」



どこに行っても
それは旅の途中

時々に遠い月を見て
帰りたくなる

どこというわけじゃない
会いたい人がいる 場所へ

色んなものを見てきたよ
色んなことを感じたよ

そういうことが自分の中で溶けて
新しい自分を気づかせてくれる

それは旅というより
冒険に近かったのかもしれない

それはそれで楽しかったけれど
別に日常が つまらないというわけじゃないんだ

会いたい人たちが いる場所があるだけで
ここが 帰ってくる場所なんだって思った

どこに行っても 一人だったから
誰かと一緒にいたくなるんだ

虹みたいに 出会ったんじゃない
きっと 作ってきたんだ
時間と思いとの二人三脚で

どこに行こうかな と思う
帰ってくる場所が ここにあるから
どこにいても大丈夫って 思えるんだ


夏のヨーロッパへ二週間
ハンガリーのブダペスト列車と飛行機といくつかの国と街

夜まで沈まない太陽の日差し
心地よく吹く風と現地に住む友人たち

自由気ままなひとり旅は約10日間(自由気ままにやりたいことだけを)
起きる時間も食べるものもその日どこで何をするかも自由

ピカソの絵をみよう美術館も入り口で面倒になって庭の木影で本を読んだ
間違えて乗ったバスは適当なところで、行く予定のない所に行ってみたり

刺激に溢れ本当に飽きない毎日新しい発見自分の常識がどんどん裏切られる
世界中に行きたいところがたくさんあるからずっと旅に憧れ続けるだろう
20代も終盤知らない街への好奇心は薄れたのかな(全然そんなことはない)

自他ともに認めるミーハーだしクールぶるくせにロマンチスト
自分の感情の振れ幅の大きさや広がるフィクション(妄想)に手を焼く

無理して人に合わせるならたとえひとりだったとしても自由でいられる方
明るく物怖じしない性格もあって本当に仲の良い友達は少ない

「今夜、ごはん食べに行かない?」
ビールをあけて共通の友人が今夜片思いの相手とデートにでかけると噂話
最近の仕事の話私がスコットランドのウィスキーのうんちく
湯呑みの魚へんの漢字がどれだけ読めるなぜか競い合い笑い転げて
お寿司がなくなっても他愛もない話をずっといつのまにかラストオーダー

最近どんどん仕事が忙しくなるからコアラみたいにぐうたら生活したい
栄養がないユーカリを食べなきゃいけないからずっと咀嚼してなくちゃ
「口が疲れちゃうよ」
「なんで毒のあるユーカリを食べることにしたんだろうね〜」
(コアラってユーカリ以外を食べても生きていけるのかしら?)

好きな人と町中の普通の寿司屋に入って
湯呑みに書いてある魚へんの漢字が何個読めるか競い合うの
もはやこれ以外なにを幸せというのでしょうか

どんな景色にも敵わないものがここにある
私を好いてくれているのかとかこれからの未来のことはどうでもよかった

心から信頼し尊敬して飾ったり偽ったりすることなく話ができる人と
たとえこれが最後だとしても一緒にテーブルを囲める時間が嬉しくて
魔法みたいにキラキラと時間が過ぎていった

息を飲むような絶景も何百年も人々を魅了してきた名画も宝物も
おいしい名物料理もまったく太刀打ちできない幸福な時間だった

目の前のたったひとりの人にひとつのことを伝えるために
人生のすべてを使っても構わないのではないか

本当に幸せな瞬間は旅ではなく日常の中にある
日常の中の大切なその瞬間は旅から帰ったすぐ後に起こる小さな奇跡

なんでもない毎日が心の底から幸せだと思える本当にすてきな日曜日
これからつらいことも悲しいこともきっとたくさん起こる

素敵な出会いやできごともひとつひとつを振り返れば忘れられない今
すぐあの瞬間に飛んで帰りたいような懐かしく切ない気持ち
(これからもきっとどこかへでかけていく)

あの日曜日に感じた気持ちを大切に育てていける人に私はなりたい

風に囁くような心の残りのような「行かないで」
「まだここにいて」心の中に私の中に 永遠に そこで 私の心を温めて


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