井上法子「永遠でないほうの火」



海と重なる 深い深い祈りのような
言葉は奥深くへと潜っていく 祈りへと至るための巡礼の旅のように

どこまで行っても 結局は一人ということを
どうしようもないほどに突き付けられる

寂しさがなぜか 静かで美しい
一人という夜を 航海する

静けさの中に渦を 悲しみとしか言い様のない
真っ黒な闇に 光を探して

そこは月さえも揺らぐ 海と光
波のように揺れる 輝く火

揺れる花 止まった船
凪いで 荒れ狂う波

その心が 意味するものを
想像して 息が止まる

痛みと言葉 夢と雨 氷 鳥 そして
日常のありとあらゆることが 雨粒のように降り注ぐ
心の襞を伝って流れて行くのか 海へ通じる川となって

違う世界へ行きたいのに
誰も連れていってくれないなら
もうどこにも行けない

燃えている明かりと熱さを頼りに
行き先を風に聞く 流れる方へ

憎しみは導火線のよう
感情に火をつけて すべて燃えてしまえばいい
愛に似た 悲しみが やはり静かに揺れる

水というそれは 冷たさと静けさではない
その奥底に湛えた 激しい情と灼けるような熱さと
うねる氷と輝く炎のような
相反するものを孕む――海だった

――誰かが言った
「それは舞い降りるのか」――と

誰かは答えた
「いいえ、それは溢れるのです」――と

この目で見て 心が思い
体が感じた全てが言葉となって
感情のように溢れ
雨粒のように零れるのです――と

―――だから

――言葉はゆりかごになります

いつまでもあなたを守れるように――

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