「雛倉さりえ」について

「ジェリーフィッシュ」

若いということの 美しさと残酷さと
拙さと 成熟への過程と
世界を切り取る 鋭い刃物のような 視点と

放っておいても 勝手に
放っておくから 自然と
傷ついてしまう
危うさと 脆さと

自分と 自分の体と 指先から ほんの少し離れてしまうだけで
自分ではないから どうにもできない 

そんなことは 当たり前なのに
そんなことで 心がどうしようもなく 揺れ動いて

悲しくなって
強く 生きていかなければと 思う

悲しみを飲み込むことが 苦しいなら
苦しみを吐き出しながら 生きればいい

きらきらと広がる未来のはずが
覗き込んだ瞳の奥の 深い底が 海のように深く
水たまりのように浅く 簡単に どこか遠いところに 届いてしまいそうで

怖くて 揺れる
揺れながら しがみつくように

それでいいのだと 思う
そうして生きていくものかもしれないと 思う

R-18文学賞 vol.2「ジェリー・フィッシュ」

小説ではまって見てみた
最初は、ただ映像化しただけだと思って
あまり心に来なかった。
小説の表現の詩的な言葉が好きなだけだったのかもしれない。

再度見てみて。
全く、違って見えた。

親の不在
不安定な心
親の存在
拠り所を求める体

生きる意味
人と一緒にいる意味

二人とも探していて
どこか 傷だらけで
とても 危うげだった

間に入る男子高校生との関係が
なんて稚拙だろうと呆れた
でも、そんなものだろうと思った
満たされないもの、満たされるもの
揺れて、傾いて、今にも崩れてしまいそう
女子高生の二人の関係がなんて儚げだろうと思った

もう壊れることが
分かってしまうくらい

――あぁ、と思った
きっと、そこに、自分は、惹かれたんだと思う

壊れてしまうその一瞬の
もっとも美しい瞬間を
探していたのだと思う

-reprise-

―――それから
「ジゼルの叫び」を読んで
生命力と死の力強さに打たれて 溺れそうになりながら
そういえば、あの時漂っていた海月は どうなったのだろうと、思って
前作のジェリーフィッシュを 読んでみた
刃物みたいな若さから目を背けて あまり読まないまま 閉じた

永遠ではないはずの時間が ずっとそこにあるような気がして ドキドキした
いつまでも若いままではいられない でも あの時手にしたものが

いつまでも どこか遠くを もちろん今も 照らしているんだって 思った


「ジゼルの叫び」

まるで詩だ
詩が連なって文章になって小説になったかのような

心が痙攣するような瞬間がずっと続いて
宝石に目が眩んで眩暈がしそうだった

咽るような緑の香り
崩れそうな儚い曲線

壊れたままの夢
夢の先に道を見つけた人

生と死が反転するように舞う 湖の下に沈んで
切れ切れの息で 息継ぎして 空を瞳に映して

息をして 繰り返して
それだけで 息をして
それだけで 生きていて

美しくも脆く 弱く
同時に 揺らぎながらも輝く 眩くも 強く

死のせめぎあいで 咲く 花のような 生と

「もう二度と食べることのない果実の味を」


恋と呼ぶには あまりにいびつで
愛と呼ぶには あまりに早熟で

危う過ぎるその手を けれども取った人は
弱くても 愛だったのかもしれない

恋だけでは 呼吸はできない

優しさは淡くも儚い泡のよう
だから夢みたいな恋は いつか終わるもの

目が覚めたら 日常は寒くて 冷静だった

いつも通りの日々を
壊してしまいたいと思った その手が
けれども 好きという欲望が 崩していく

砂のように 波のように

けれども思ったように 壊れてくれない
心の方が 軋んでいく

あるいは、体の方が

美しい場所へ行きたいと思った
ここではないどこかへ
けれどもそれはどこにもなくて

認められなくて
悲しくて悔しくて
寂しくてどこか虚しくて
けれども爪を立てて 握りしめて
しがみついたそれが やっぱり
壊れることなく 私を許していた

守るための その手だったことに気づけたのなら
壊すためのその手を取ったのは やっぱり

愛だったのでしょう

「森をひらいて」

女であること
少女であること
女性であること
無垢と成熟を併せ持つそれを官能と呼べばいいのか美と呼べばいいのか

蝶のように軽やかにそれは羽ばたきながら
重く青々と茂るそれは森

何かの対象として見られることを拒み
価値と品定めをされることを嫌悪する

それらを自らの手で掲げることはできないのか
それらを自らの存在だけで証明することはできないのか

誰かの 何かの対象とならないままに

道具でもなく 商品でもなく

人として そこにあることが どうして許されないのだろう

その怒りを湛えた湖は
もうずっと前から 最初から 息づいていたのだろう

少女が少女と手を取る意味
男性がいながら不在の意味

それらが意味することは きっとその抗いだったのだ

官能と欲望 迷宮と美貌の奥深くを分け入るように
嗚呼、それは、積み上げてきた言葉の頂に聳えた 森だったのだ

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