11頁「取るに足らないささいなことを」

手にしたもの形一つ それは名前一つ
銀貨と交換したそれは
誰かが大切に作ったモノだったかもしれない

触れられるものはすべて自分が大事に生きた時間
稼いだお金で買うこと 部屋の中に連れて帰るということ

お気に入りの音楽を朝陽の中に溶け込ませてるように
それらは日常に馴染んでいく

「できたらこのカップをもう少しこころときめくものに変えたいなぁ」
「もう少し小さなサイフにしたいなぁ」

ささいで取るに足らないものたちを、
けれどどこかに置いてきてしまったものを、
拾い集めることすらできないほど無くしてしまったものを、
ひとつひとつ吟味して、増やして、貯めてゆく

おはよう、と言って
おやすみ、と還るまで
沈殿するのを待つような毎日を過ごしながら

ふわりふわり浮いたことば、
それはひかりと想いと未来過去

毎日助けてくれるものを探しながら
この手でも生んでみたいと思ったりもして

いつかの言葉が「私のため」をやっと離れて
どこかへ行ける日がくるのを楽しみにして待っている

どこへでも行けると分かったから
どこへも行かない今があってもいい

何もしたくないと言いながら
目はずっと前を見つめて
部屋の中響く音楽に気持ちを委ねながら
なりたい自分になるための準備を

そういう歳の取り方を、私はしたい
私の好きで満ち足りた日々を、過ごしながら


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