寄り添うための詩「秒速5センチメートル」




いつだったか恋の旅人から教わった秒速5センチメートル
それは桜の花が宙を舞い落ちるときの速さらしい

「テストには出ないよ。だって、学校じゃ教えられないから」

実験に必要なのは桜の木と頬をなでる風それから恋してる気持ち
(それって理科室の戸棚には入りきらない)

その言葉を思い出すのは決まって春だった
歩く夕焼けの桜並木まるで恋人同士まだ恋を知らない娘と

秒速5センチメートルで舞い落ちる花びらは「ないてる」


数十本も数百本も立ち並んだ満開の桜
枝いっぱいに溜めたピンク色の涙をいっせいに散らすぼんぼりのような光
それは秒速5センチメートルで宙を流れる桜の涙

娘もいつか恋をしてその時がきたら涙を一粒こぼすしかないのだろう


すぎゆく時間と季節を桜の散りゆく姿が告げていく
子どもの頃は分からなかった だから泣いているとも思わなかった
恋をするような年齢になって それは泣くのだと知ったような気がする

娘と一緒にみた満開の桜を見て それは悲しみでもあるのだろうと思った

それは僕が子供の頃からずっとずっと
繰り返し繰り返し
春になると決まって思い出す言葉のように
泣いていたのだ

積み重ねた時間 笑いあった季節
すぎた時は戻らない そんなことは知っているはずなのに

君は、君のまま
変わっていく
昨日の君にも去年の君にも、子どもの頃の君にも、もう会えない。

こんなとこにいるはずもないのに
面影が重なった人に 記憶が交差する

未来はきっと 明るい そして幸せはずっとずっと、
桜が零したなみだのような 約束のように、そばにあるんだって

教えてあげたいんだ


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