22頁「情けない」




父親との食事は楽しみの感情と悲しみの感情の半分ずつの戦争行事、日曜日
嫌いでなくても両親に会うのはとても辛い今の両親は別の生き物

子どもの頃の私は怒られてばかりで我慢ばかりをしていた
怒られて当然だったのだ(私はそう思っている)

東京に来た私に会う両親は優しくて不気味で私の知っている両親じゃない
何で子供の時に話を聞いてくれなかったの遊んでくれなかったの疑問ばかり

両親が一緒に過ごした18年間毎日話す暇もないくらい忙しいのは私の所為
どうして今は連絡くらいよこせと言われるのずっとずっと話したかったのに

ありがとうなんて言ってほしくなかったしたくて勝手にしたこれは私の我儘
嬉しそうな顔なんて見たくない18年も怒っていた両親が今笑っているのは嘘

今まで当たり前のように見てきたものたち
地元のホタル、友達と待ち合わせた流れ星、好きだった景色の多くのもの

本当に、本当に、数えきれないほどの多くのものがなくなった
私はこれ以上、何を手放せばいいだろう
どうすれば誰にも迷惑をかけずに、ゆっくり本を読んで暮らせるのだろう

私の居場所は東京の片隅
誰かを好きにならないし、誰かに期待もせずに一人でひっそりと生きている
今の私に恋人がいなくて本当に良かったといつも思う

私からは何も生み出せず、大切な人を喜ばせることも、
生きる才能もない私には、縁がないどころではなく、
一生交わることのない曲線のように思えて、
ただただ、うらやましい

もしも願いが叶うのなら
大切な家族が大切な人が友達が勝手に幸せになって勝手に幸せのままで
私の届かないところで勝手に暮らしてほしい

一つだけ言いたいことは、
今日だけは、今日だけは、
生きてることそのものが、
命そのものが美しいって、
そんな嘘みたいな言葉を信じさせてほしい。

何も出来ないわたしを許してください。




今の私と過去は断絶しているみたい
この浮遊感はなんだろう

両親は私の知っている人たちではなく
私の慣れ親しんだ地元は今も失われていく

何もこの手に残っていなくても
経てきた悲しみだけはたくさん残っているみたい

これ以上何も手放すことのないこの手には
大切な本とゆっくりとした時間だけが流れていればいい(誰もいらない)

あまりにも多くのものを失い過ぎたから
誰かを好きになることはないし、誰かに期待することもない
きっと、ずっと。いつまでも。
それはまるで、一生交わることのない曲線のようで。

この手では何も生み出せない
大切な人を喜ばせることもない
生きる才能もない

それでももしも願いが叶うのなら
大切な家族が友達が幸せになってくれたらいい
幸せのままで暮らしてくれたらいい(どうか私の手の届かない場所で)

生きてることそのものが(命そのものが)「美しい」と
嘘みたいな言葉を信じさせてほしい
何も出来ないわたしを許してほしい

できないことを積み重ねて継ぎ接ぎで自分さえも騙し騙し作ってきたものが
その悲しみの中で 毎日を微かな光を頼りに 言葉を探してきた

全てが嘘みたいでも目の前で起こった現実のこと
だからちゃんと信じられる(いつか)
私が許したくて言葉にしたのだから
確かに許されている(きっと)

勝手に生きてしまう命が
勝手に幸せになろうとしてしまう生きていることが
私の手の届く場所で 手の届かない(ような)場所で
勝手に 眩く 美しく 輝いている

その美しさに照らされて 悲しみが 言葉を 今日も探す



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