「月詠 詩」について

「宛て名はない、でもきっと届く詩。」


まるで氷の世界
美しくて いつまでもここにいたい
でも痛いから いつまでもここにはいられない

夢のような 現実の
現実の彼方の そんな風景で
だから 何度でも触れたくなる

思い出のように
何度でも見たくなる

あの空のように
心の置き場所を きっと誰もが探していて
見つからないなら きっとそれは自分の居場所じゃない

いつだってそんな場所を探していて
だから人は 詩を書くのだと思った

想いを吐き出すためではなく
その先の 生きていることを 歌えるように

痛いだけでは終わらないから 悲しい
嬉しいだけでは終わらないから 虚しい

どちらにせよ きっと 生きていることが 苦しい
だから言葉という 一つの命のような 生き方が
一つの 救いになる

「涙の1秒前を」


冷たい風の中でしか生きていけないことと
こんな場所でしか息ができないことが
苦しくて 悲しくて
それなのにどこか 愛しくて
それはまるで 月の歌

悲しみが満ちては 痛みが退いていく
寄せては返す波のように 眠りと目覚めのたびに
繰り返し 繰り返し 呼吸するように
それはまるで 夢みたい

はるか 彼方に
こいねがう 夜空に
流星は後悔をのせて

秋が散ってしまう時に
どこかで花が咲いて どこかで花が散った
どこかで朝陽が射して どこかで満月が泣いた

生きていこうと それは囁く
全ては移ろうと それは廻る
誰かが眠る時 誰かが目覚める

歌のように 微笑むように
生きていく場所は ここしかない
ここでしか 息ができない

だったら ここを幸福と夢の置き場所にしよう
流れ星が消えるなら ここに落ちてくるように
新月になった時 ここでは満月になるように
冬が来ても ここは 暖かな場所で あるように

誰かの心を食べるように 言葉は生まれていく
誰かの思いと繋がるように また一つ 心が揺れる
私の心と あなたの心の狭間で
一つの言葉が 揺れている

月はどこにでもある
滴り落ちる血の中に
満ちて零れる涙の中に
遠い日の記憶の夜空の中に

それは崩れ落ちるような桜の花びら
目蓋の裏について離れない夢
自分だけの記憶 自分だけの孤独
それらすべて他の誰にも明け渡すことなんてできないもの
他の誰かが守り抜くことなんてできないもの

目を閉じて眠る前の祈り中に
私は花ではない
でも花のように生きることならできる
私は月ではない
でも月を胸の中に持って鼓動を感じることはできる

片方の目は朝陽を見るために
もう片方の目は夜空を見るために
片方の瞳は行くために
もう片方の瞳は帰るために

あなたがいる わたしがいる
帰る場所がある 束の間の 平穏
どこにも行きたくない ここにいたい
立っているだけで
手のひらを空に向けているだけで
降り注ぐ雨を受け止めているだけで
こんなにも 満たされるものがあることを
知っているのだから

時が重なった場所から はみ出るように 未来に向かって歩く
歩き続けていれば月にだって届くかな
どこかで落とした自分だって拾えるかな
何か大切なものを思い出せるのかな

それはただいま 悲しみの前の喜び
それはおかえり 涙の一秒前

足跡という継ぎ目で編む
深呼吸で肺に勇気を詰め込む

遠くの感情が先走る
言葉を燃やしてしまうことなく

私は私を続ける
私は私を 生きている


「四重奏」


あなたの言葉は五線譜に落とし込まれた言葉の交響曲

作品ごとに重なる一秒の世界
音楽的に言葉が鳴っている

祈りと心の旋律「ただいま」と心音
途切れた声置き去りの感情忘れ得ぬ色

誰のものでもない物語
痛みと微笑みと闘いと 誇り

空は満点の足跡
いつだって一秒を守り抜いてきたからここに いるんだ

「だからこそ」にぎりしめた心の欠片を抱えながら
はなびらと いのち手の届かないところ

涙は 詩で 宙と繋がっている

宇宙の涙と地球の一雫に
記憶と孤独炎と幸せ

ひとりぼっちで廻りながら希うように朝を呼ぶ

灯りが不和に揺れる風に揺れる 一輪の花のように

「きっと、大丈夫。」あなたも。

夜が明ける
永遠の追いかけごっこ

雫を集めた羊雲
明日の夜明け優しさの面影

「夜を犠牲に」


もう手に入らないと思っていた
まさかの入荷通知
まるで遅れてきたサンタさん

「夜を犠牲に」

「それはきっと
夜を味方にするための
おまじない」


星がきれい
今が栞
言葉を綴って、詩を織ろう

どんどん風景が重なっていく

どれだけ願っても叶わない
涙の欠片を繋ぎ合わせて
願い事

それも知ってる これも、これも。

どこかで見た遠い日々の記憶が言葉によって蘇る
初めて見たとは思えない重なりはもはや懐かしさ
どこかで繋がっていたのだろうか 同じ場所を見ていたのだろうか

星の隙間
大切な欠片

宙と景と
月と涙と

辿り着いた喉の奥
全ての過去形は美しい世界の一部

二秒だけ続けた
昨日と私

届かなくても
繰り返してきたでしょう

ぬくもりとかなしみの間には7分の差
こころとそらの隔たり

過ぎ逝く夏 秋の輪郭
星屑の舞う冬 還ってきた春

一日の終わり 四分給付
深い呼吸 秘密基地

大人と子供
2歩先 還る場所

涙 夕陽を注ぐ
雨 私は夕焼けになる

ちっぽけな掌で掴んだ未来はちっぽけな希望
少しずつ溶けたものは消えていない一杯のホットミルク
喉の奥 心細い夜 はちみつレモンとホットミルク
寒いって知っている 胸の中で咲いた花

俯きながら咲いた花いつかの桜は歩ききった自分
未完成のまま開いた今を編んでその先へ
耳を澄ませて呟いて俯いて痛みはなくならない

涙の浸透圧と夜の隙間明日分の酸素を吸い込んでおく
宇宙の星は一人称の私二つの六等星があなたのために尽きる

ペガサスの陰で折り畳み傘を鞄に入れ星座に漕ぎ出す

もう二度と元には戻らない
それは心拍数に似ている弓張の月
報われる記憶は静かな存在の証

ただいまとさようならの色は
涙と夕暮れがとても似合う
僕にとっては生まれた場所が同じだった

過去に繋げた今の素描は二十四時の向こうに
結びの弛みと繋ぎの歪みは一秒の針の数ミリの震え
あなたの内側で生きる、届けたい言葉は今日を潤す

いつかきっと私も二酸化炭素になる流星の儚さで 夜を犠牲にする


「心の旋律」


――それはまるで、
 遠くの自分を見ているかのような不思議な夢だった
 ような気がする。

描いた夢、今日に賭けた想い、一瞬の残像、
それらが一行一言ごとに重なって波のように打ちながら心に沁みこむ
まるで自分自身を見ているみたいだ

これが本当に、大野弘紀の影響とかだったら、ちょっとうぬぼれだけど、嬉しいな、とか、思ったり。

フライヤーを重ねた風景画のような
幾重にも連なるカーテンの一瞬の揺らぎのような
蝶のはばたきと海のさざなみが重なった瞬間のような

一瞬一瞬が、その瞬間瞬間が、重なるごとに、
広く深く世界を彩っていく。

言葉が何度も出てきているのは、きっと偶然じゃない。
毎日誰かが空を見ることも、ため息を落とすのも。
繰り返す出会いも、毎回同じ登場人物も。全て。偶然なんかじゃない。

辿り着きたかった景色の、描こうとした世界の、
一つの在り方がここにあって、とても嬉しかった。
同じ世界を見ようとしている人が、こんなところで言葉を紡いでいる。

宛名のない手紙、そんなことない。届いた人には伝わるよ。
ちゃんと書いてあったよ。重なった部分に名前を付けたら、
きっとそれは宛名だよ。

―――――――

その時は、
 12月31日 午後24時0分0秒。

1秒前の月の光は もう周回軌道上。
宇宙の速度で息をする。
空から、春から、
命の、
家に帰る、花弁。
輝けずとも 蓄えた光を
帰路へ、蛍火。
月を照らす1mm。

2秒だけの繋ぎ目。音なしの森。一つの環。
月を描き出す 心の破片、今の素描。
痛みと、傷と、凍みと、愛と、――風の形。
土砂降りの流星雨。
ひっそり零す涙。天の川。
羽と花弁。光源、記憶の淵。
宇宙の涙。月は海から。重なった像。
通り過ぎた夜。明日分の酸素。一瞬の温もり。柔らかな心。
月の呼んだ朝、手紙。

――たった1秒の物語。
声が届くまでの時間。
ありがとうと、
 だいじょうぶ。
自転する1秒後。一瞬の澄み切った闇の中。詠う。
大地を泳ぐ。ペンギンの歩幅のような。
羽の音。千年の孤独。一秒の別れ、つまり明日。
ただいま、
 さようなら。
辿り着いた場所は今。
散り際に咲く。
いってらっしゃい、
 此処で待ってるよ。

まるで昨日のことみたいな1秒前。
色を失くしても、
僕の心の形、
夢の入り口。
袖口から零れた滴。
拾い続ける花瓶の破片。
守り抜いた、やがて終わる大切な夜。
涙が咲かせた、今日の過ぎ去ったすべてを探しに出かけよう。
今夜も一人、そっと耳を澄ませる。
宙に浮かぶ数多の言葉に。
たった1秒に宙が染まっていく。
忘れてしまう、儚い間の一歩。
満ち欠ける、今日もまた。
遠くで鳴る詩が明日へと。
夜が灯る、悠久の時。
明ける夜、残星。
綴る、そして詠う、1秒後から。
あなたの瞳を通して。

――それは
 涙の1秒後に、宇宙に浮かぶ、

心の旋律

―――――――「心の旋律」に寄せて。


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