いせ ひでこ「チェロの木」


素晴らしい本だった。
伊勢華子氏の「せかいでいちばんうつくしいもの」に匹敵するくらいよかった。

森の中の木
木の中の楽器
楽器に含まれる音楽
音楽が心に紡ぐもの
そうして出会った人たちが
色合わさるように彩になってとけていく
そうして豊かな音色だけが美しく透明に心で鳴り響く
そういう絵本だった
あとはもう詩で。

――――――――

踏み入れた森は広い海みたいで
とてもじゃないけど両手に収まらなかった
触れた木はどんなに大きくなっても超えられない

切り出された木が楽器になるなんて信じられない
木が音を出すなんて それは森が歌っているみたいだ

両手に収まる森の息吹が 空気を揺らした
それを音楽というのだと知ったのは
初めて見たそれを虹と言うのだと知ったようで

心を震わせたそれを思い出と呼ぶなら
奏でた人が永遠に心の中で歌っていて
その物語はきっと あの森から始まったのだろう

この手で奏でたら
物語は自分の番

淋しくない 全部音の中にある
美しい場所は見えなくても それを思い出と呼んだ

その森はずっと 口ずさんでいる
それをこの耳で聞きたくて 何度でも弓を取る

嗚呼、音楽は心臓の鼓動みたいだ

星みたいに続いている 光みたいだ





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