4 31 おまけトーク(研修ブレイクスルー)



歌はどこへ行くのだろう
胸にしまった想いはどこに届くのだろう

彼は去っていく人たちの後ろ姿を見送って
ギターをケースにしまう かけられた声に手が止まった
顔を上げると 絵画展で彼に注意をした女性が目の前にいた

彼女はさっきの歌について尋ねる
歌い人は答えるように 画家の絵に賛辞を贈った

彼女は不思議そうにもう一度尋ねる
自分の作品がそう見えたのかと

見えたというか…聞こえたというか…
彼の答えははっきりしなかった

言葉にするのはとても難しかった

誰もが空を見ただけで
音色を聴いたりなんかしない
風が歌になんて聞こえない

彼の世界はいつも煌めき美しく
果てしなく孤独だった

孤独な世界で誰かと繋がりたいと思う
自分独りがこの世界で生きているわけではないのだと

彼は何も言葉にではできなかったが
何か聞こえたかのように
彼女は微笑んで頭を下げたのだった

立ち去る彼女の後姿を見送って彼は考える
「ありがとう」というたった一言のために
待ち続けていたのだろうか

夜空の下でキャンバスを立てかけて
筆を片手に流れ星を待つような姿に 彼には見えた

夕陽が沈み 太陽が眠りに墜ちて
夜が広がり 星たちが踊り出していた

彼は人混みに紛れてどこかへ行ってしまう

彼は旅人でもあった
次はどこへ行くのだろう

今日もどこかで彼は歌う
思い描いたのはあの日の後ろ姿

たくさんじゃなくていい
たった一人に届けたくて

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