4頁 「「無駄なこと」ばかりが人生なのかもしれない。」



荷物を詰め込んだ鞄
何かを落っことしてきた靴の裏

書き間違えてくしゃくしゃにした手紙
気になるけど時間なく諦めた社交辞令

ため息と気疲れ(何を落してきたのだろう)
珈琲とひとときの静けさ(時間だけが過ぎていく)

何かとゆっくり向き合うことを
この手はしてきただろうか

時間をかけて確かめながら
胸の中の一頁に書き記したことがあっただろうか

忘れるのでもなく
消えてしまうのでもなく
一つになるくらい
もはや分からなくなるくらい
一緒になってしまいたい

もうずっと 消えないように



「美味しい」と「好き」は時に別物
「また食べたい」は容易には叶わないから恋みたい
(枕詞に「高級」「限定」「希少」がついたとしても)

完璧主義の人間には最初からない選択肢(誰かの決めた答えに抗う)
「悲しむ」というルートは存在しない(「泣いて縋る」なんてBボタンも)
"優良なマニュアル"はあるがままを受け入れる大人の優しさ

マニュアル、効率、最短ルート(それまで正解とされてきたはずのそれら)
一番大切な人との関係で役にも立たずに音を立てて崩れる「自己肯定感」

想定し得る筋書きなんて自分勝手なシナリオでしかなかったこと
理由やヒントの手札を持ち合わせていない空虚(日々を反芻しても)
思い出を「嘘」と「本当」のフィルターにかけたとしても(その基準さえ)
愛されていたのか愛せていたのかも分からなくなる(繰り返すうちに)

(無駄はそんなところにない)
(価値はそんなところにない)

嫌が応にも心を引きずり出されて
文字通り時が止まってしまうような感覚を味わう瞬間は
往々にしてもっと無防備で(気づけば心を連れさられている)
"それ"以外あらゆることへの思考回路をショートさせてしまう食事の体験
盲目的に何かや誰かを好きになる事ととてもよく似ている
(全てを忘れてしまえるほど心が動く瞬間にも出逢えない気がしてしまう)

「〜だから好き」よりも「〜だけど好き」の方がずっとずっと尊いように

時に無駄で(時に馬鹿で)
時に正しいとは言えないその「忘却」の瞬間は
心を動かした分だけ時に苦しい

日々の細やかな瞬間にこそ「本当のこと」は存在して
それは筋書きも答え合わせも必要としない愛のひとつ

人生は無駄なことばかりなのかもしれない
無駄なことばかりが人生なのかもしれない

幸せの火種は「無駄なこと」の中にこそ
小さくも温かな熱にこそ生かされている
悲しみの衝動で水をまきたくなる時も
嫉妬の風に消されてしまいそうな時にも
負けずに(大切に優しく)
守っている(焚べ続けて)


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