19頁 「普通ではいられないほどの悲しみと、普通でいなければならない日常 」




何かがなくなった瞬間
日常が そういう何かでいっぱいに満たされていることに気づいた

誰かが残してくれたものが
夜空で星になっていた

いつの間にか
大切になっていた間に

星の一つ 一つが
気にもとめてなかった 当たり前に埋もれて 輝いている

なくなることは寂しいけれど
なくなった分 心を見えないものが満たしていることに気づいた

泣いた分 この世界は悲しくなった
笑った分 この世界は優しくなった

忘れないで
悲しみも 痛みも
生きていく喜びも
それが そこにあったことも
日常は きっと 既に悲しい
産声を上げた瞬間から
そして 愛しい
命の温度が 温かいから



そのニュースは私の息を止めた
止まった瞬間世界はまるで変わってしまった
今この瞬間私が生きている世界はもう彼のいない世界

泣きながら友人と連絡とってそれでも朝はくるのだなぁとぼんやりしている
全然寝れない
太陽が世界を明るく染めていく(私の気分とは裏腹に)
今日は何も変わらない地続きの1日(他の人たちにとって)
ここはもう「彼のいない世界」(それでもいつもの1日は始まる)

私の悲しみは周りには関係ない(やらなければならないことが沢山ある)
いつも通りの予定通りの当たり前の自分(でありつづけなければならない)いつも通り笑えるし冗談も言える(気持ちは今にも泣き崩れてしまいそう)

別の人格に切り替えている何も考えられない自分と本来の予定通りの自分
泣いた次の瞬間に仕事を考え楽しい未来を話し冗談で笑う「日常」の私
どうしたらいいのかどうしたいのか自分でも混乱している

「笑って見送ることはできないかもしれないけどどうか咎めないでほしい」
「おつかれさまと言ってくれ」まだやっぱりそんなこと言えない

どうかどうか
生きていてほしかった(未来への可能性を捨てないでいてほしかった)
歌も曲もなくて休止でも脱退でも解散でもいいから幸せに生きてほしかった

この悲しみが消えることはない
悲しみ傷つき続けることは「忘れない」ということ
その傷は外からは見えないでも確実にそこにある

どちらもある傷をなおす自由もあえてなおさずに抱えていく自由も
これから先きっと同じようにどうしようもなく悲しくて辛いことがある
いつか日常生活が送れないくらいの悲しみが押し寄せてくるかもしれない
少しずつ悲しみが日常に溶け込んでいって毎日それでも夜は明ける

いつか「愛」として昇華されて自分の宝箱にしまわれていく
今の悲しみもきっといつか「大好きだった」思い出に変わるはずだと信じて

未来を歩いていこう
日常は色あせたけれどそれでも鼓動は続いている
みんな同じ場所で同じ色を分け合って
重なるように見えたものを分け合うように思い出にして形にして

ここにいたことを覚えていられるように

ずっとずっと――消えないように


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