ヘルマン・ヘッセ「雲」

なぜこうも空を見て歌を見出せるのか

一面の草原 仄かな町の明かり
遠くに広がる森 果てしなく続く空
形を変え続ける――雲

自然というものの 偉大さに 感動し
自らの矮小な姿に 虚しさを覚える
その名も 畏怖

雲という、水の変遷に
人は魂を見たのだろうか

刻々と形を変えてゆく、
しかし終わらない旅に人生を、
見たのだろうか

旅人はどこに行くだろう
瞳と光の交わる点に散る 雲を眺める
毎日の変遷を辿り 季節の移ろいを知る

雲は突然訪れるのではない
風に運ばれ 遥か彼方からやって来るのだ
風に吹かれた時 それは出会う
風が止んだ時 既に通りすぎていた

まるで友達のように あるいは恋人のように
親しげに語り合うかのような
錯覚なのか、白昼夢なのか

ここではないどこかに帰りたくなる
それは 空の向こうに思うのか

私たちはどこから来たのか
それは 海を眺めて思うのか

一瞬と永遠の刹那 郷愁と希望の邂逅

しかしそれは全てにそうなのであって、彼らは簡単に移ろっていく
知らぬ間に、見知らぬ町に、旅をしていく

寂しさとも虚しさとも違うそれを無常と呼び

雲の様相から言葉を見つけるように、
その声が聞き取れたらどんな言葉を知るのか、

翻訳ではない、言葉にならない言語を、神秘と読んで
決して聞き取ることができぬという、この隔たりを、孤独と呼び

言葉という、一つの言語に呼応する、光と、音と
香りと、彩りと
そして雲と、雨もまた、そうであるように

翻訳とは人の手による
それを人は芸術と、読んだ

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