今昔御伽草紙・『大河の果てに』

むかぁしむかし
といわれ
あなたが思い浮かべたころよりも
さらに昔のことであります
人間がまだサルに近い生き物だったころ

アボギという名の男がおりましてな
彼は群れで一番の力持ち
アボギはあるとき恋をして
シグニという娘と結ばれた

アボギとシグニの間には
コバダという名の息子が産まれ
このコバダこそ実は
何を隠そう人類で
初めて火をおこした男

そしてコバダの孫の孫
そのまた孫の孫の子に
キヨヒトなる男がおって
彼はなんとも残忍な男
村を襲って人を殺し

金品を奪って暮らしておった
子供や家畜も残らず殺し
見初めた女はさらって抱いた
そんな非道な男だったが

しかし彼も捕えられ
世にも無残な方法でもって
生きたままに殺された
だがそれも
彼がした悪行を
思えば無理からぬことで

キヨヒトに
子を宿された娘は数知れず
その時代は今のように
子を堕ろすすべもなかったので
女は子を産み
産んで殺めた

しかし中にはキヨヒトの
血を継ぐ子供を殺さずに
育てた女もおりましてな
そうして死ぬのを免れた
カエデと云う名の娘っ子

彼女は齢百三十まで長生きし
その生涯の間になんと
子を十八人もつくって果てた
さらに時代は大きく下り

カエデの血を引くムネハルは
とある戦場で負傷をし
その看病をしてくれた
女と恋して結婚をして
子供をつくったのだといいます

その子供はさらに
ふたりの子供を産みまして
その子の孫が娘を産んだ
娘は育って大人になって
男と結ばれ子を産んだ

大河のような歴史の果てに
そうして産まれたその子供こそ
何を隠そう
実はあなたであるのだが
多分あなたは知りますまい

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