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なにもかも思うようになんていかなくて隣の芝生が青いときに聴きたい曲。

もしあなたがこのタイトルに目をとめて、まだ関取花の『もしも僕に』を聴いたことがないならば、この先の本文なんていっさい読まなくてもいいから、とりあえずこの曲だけは聴いていってほしい。

歌詞付きPVへのリンクをここに貼る。

ここから先はちょっと思い出話になる。

わたしが関取花ちゃんの存在を知ったのは、自分がまだ独身の20代最後のころだった。暇があるとYoutubeの中をぐるぐると回遊していた時期があって、そんな中で偶然知ったのだ。

そもそもはGoose houseという、シンガーソングライターが集うシェアハウスのチャンネルを見つけたのがきっかけ。楽しげなセッションの様子に惹かれ、Goose houseチャンネルの動画リンクを次々たどっているうちに、ぶち当たったのが、この動画だった(↓)。

関取花ちゃんが、スピッツの『楓』をカバーしているこれ。

もともと本家スピッツの『楓』も好きなのだが、はじめてこの動画を観て、目が釘付けになったし、鳥肌が立った。息をするのを、しばらく忘れた。

透きとおって伸びやかな、それでいて力強い歌声。胸がしめつけられるくらいに伝わってくる感情の強さと、その豊かさ。

これほど『楓』を聴かせるようなカバーに出会ったのは初めての体験だったし、本家スピッツも含めて、これほどまでに心を揺さぶられた『楓』はわたしの中で初めてだった。心が、びりびりとふるえた。

当時はわたしもシェアハウス暮らしで、しかも隣の部屋と一部がつながっている構造だったから音は筒抜けだったのだけれど、イヤホンを耳に突っ込み、疲れた一日の終わりに何度も何度も聴いた。日々の忙しさの中で、花ちゃんの声につかのま心が洗われて、癒やされてゆくのを感じていた。

そうして関取花ちゃんのことを知り、興味をもって調べるようになった。

当時知った中でとくに衝撃だったのが、2012年の神戸女子大CMソングにも使われたという『むすめ』。

PVはちょっと個性的な感じなので好みは分かれるとは思うけれど、なんといっても、声と歌詞が突き抜けていた。

まろやかな声が、サビのところでぐん、と力強くなって胸にせまってくるあの感じと、歌詞の、10代を通り抜けてきたひとならば絶対に感じるものがあるまっすぐな内容が、ずばんと心に突き刺さったのを覚えている。

親もとを離れた一室で、これも当時、何度も何度もリピートした。

“春が来たら家を出るわと
軽い気持ちで告げた夜
少し寂しそうに笑って
父と母は言ったのよ

学べ 学べ 学べよ 学べ
お前の好きなこと 見つけなされ
広い世界に 触れてみなされ 夢をみつけなされ”
(出所:関取花『むすめ』)

当時のわたしは20代後半で、まだ独身だった。

さすがに大人にはなっていたから、10代の気持ちそのものではないけれど、それでもどちらかというと「娘」側の気持ちで、それまでの自分のわがままを思い出しながらこれを聴いていた、と思う。

それから数年が経ち、いま自分に「娘」が生まれてから改めて聴くと、やっぱり娘側の気持ちも感じつつ、親側の気持ちも重なってくる。かつて父や母が、わたしの頑固な主張にときには反対しながらも、最終的にはいつも背中を押して応援してくれたみたいに、わたしもなれるだろうか。恩を次の世代へ送ることができるだろうか。

中高生自身はもちろん、中高校生くらいのお子さんをお持ちの方がいらしたら、ぜひ聞いてほしいなあと思う曲。

ちょっとテイストの違うところでは、『めんどくさいのうた』なども印象に残っている。

”ああ めんどくさいな ああ めんどくさいな
ああ めんどくさいな あれこれうるさいな
俺は好きな本読んで 好きな音楽聴いて
好きな人と愛し合って それでいいんだ めんどくさい”
(出所:関取花『めんどくさいのうた』)

「ああ めんどくさいなあ」ってなんどもなんども繰り返しながら、でもこれほどまでに優しい曲をわたしは知らない。

歌詞だけ読むと一見攻撃的な印象を受けるのだけれど、曲を聴きながら歌詞に思いを馳せていると、心がしくしく震える。

仕事で忙殺されていたあの日々、いちばんだいじなことってなんだっけ、何が大切なんだっけ、って思い出させてくれた曲。

そんなわけでぽっと出ながらも関取花ちゃんにのめりこんだわたしは、2014年の3月、代官山のTUTAYAで行われたインストアライブに参加した。

インストアライブなんて申し込んだの初めてで、自分でびっくりした。でもそれほど強く惹かれていた。

ライブ後、サインしてもらったミニアルバム『いざ行かん』は大事な宝物。せっかくサインしてもらうときに言葉を交わせたのに、「がんばってください……!」しか言えなかった。

それからわたしも結婚や九州への引っ越しなどがあって、新しい生活がはじまった。しばらくして娘をさずかって、親にもなった。

正直に言おう。

あれほど一時期は関取花ちゃんにのめり込んでいたのに、わたしはその数年間、気持ちも体もバタバタのバタで、花ちゃんのことを忘れていた。

妊娠・出産を経ることでわたしの中にパラダイムシフトが起きて、すべての概念がくつがえった。もはや自分が何を好きなのかを、考えることも思い出すこともなくなっていた。たぶん娘が0歳〜1歳のころはほんとうに。

娘が2歳を過ぎた、ある日のこと。

Google homeに「ねえGoogle、朝っぽい音楽かけて?」と言ったら、聴いたことのない曲なのに、とても聞き覚えのある声が流れてきた。

”あれ? この声って、もしかして……?

なんだか心の中が懐かしい気持ちであふれてきて、「ねえGoogle、この曲、何?」と聞いてみると、「関取花の『君の住む街』です」と教えてくれた。

ああ、やっぱり!

時を超え、期せずして再会した花ちゃんの声に感動する。

なんだか自分はすべてが変わってしまったような気がしていたけれど、花ちゃんの声は相変わらず伸びやかで、魅力的で、懐かしくて。どうしたって心に染みた。

そのころちょうど音楽にリズムをとるようになりはじめた娘も、首をゆらしながら楽しそうに聴いていた。曲が終わると、「もっかい!」とリクエストまで。ああ、心地いいものって、わかるんだなあと嬉しくなった。

ちなみにそのときGoogle homeが流してくれた曲が、これ。

気持ちが明るくなる。PVがまたよくて、見ながら聴くと、すがすがしい気持ちになって、とても癒やされる。たしかに、朝に聴きたい。

そうして時を経て花ちゃんの存在を思い出して、浦島太郎状態のわたしは、この数年間の花ちゃんの曲を、時間をとりもどすように聴きはじめた。

そのなかでも特に心に刺さったのが、冒頭で紹介したこの曲。

『もしも僕に』(2017年)

初めて聴いたとき、家でひとり、大号泣した。

大号泣というのはなんの誇張でもなく、胸がぎゅうとしめつけられて、それでも許されたような気持ちになって、ぼろぼろと涙がこぼれた。

完全に言い訳だと思うし、うまくいっているひとはうまくいっているのだから自分のせいだと思うのだけれど、とりあえずその時点のわたしは、結婚、引越、出産を機におきたもろもろの環境変化にうまいこと適応できておらず、仕事も思い描いているようにはいかず、プライベートでも大いに精神を消耗して、ああどうやって生きるんだっけ、ともやもやMAXだったのだ。

そこに、この曲。

”もしも僕に子供ができたら
どんなことを伝えるだろう
期待してるよ 頑張れよ
そんなこと まず言わないだろう

一日三食飯食って
よく笑いよく泣き遊べ
そして他人を褒められる人になれ

努力は大抵報われない
願いはそんなに叶わない
それでもどうか腐らずに
でかい夢見て歩いて行くんだよ”
(出所:『もしも僕に』関取花)

こどもへのメッセージ、という目線も冷静さを取り戻すのにとてもよかったし、そこで綴られるメッセージがほんとうにどれもこれも心にぴたりとはまって、勝手に涙が落ちていた。引用は一部だけれど、すべての歌詞が染みるので、どうか全部聴いてほしい。

なんて現実的で、真実をうたっているんだろうと思った。それでいてひとを絶望させるのじゃなくて、なんでこんなに励まされるのだろうと。

そのときは深く分析する余裕もなかったけれど、数ヶ月のときを経て改めて聴き直していると、歌詞のこまかいところにも花ちゃんの優しさや気持ちが散りばめられているなあと思った。

たとえば上の引用部分でも、努力は報われない、願いは叶わない、と言い切るわけではなく、「大抵」や「そんなに」などのことばがはさまっている。

それがまたとても真実であり、実際にシンガーソングライターとしての大変な道を歩みつづけて、2019年、この春にはメジャーデビューを果たした花ちゃんのメッセージとして、とても響くものだと思った。

大いに感銘を受けて、この曲が入っているアルバム『君によく似たひとがいる』を2年遅れで買った。

その中の『また今日もダメでした』とかはまた、未婚・既婚も問わず、全20代〜30代女性にささげたい応援歌だと思う。

”とりあえず積んどけばいい そんで隅に寄せておけばいい
これで大体のとこは片付いてるはず
いかに動きを減らすか ベッドを基準に考える
そうやってまたなにもせず終わる

また今日もダメでした
また今日も私 私に負けました
明日から 明日から本気出す”
(出所:関取花『また今日もダメでした』)

透きとおって繊細な気持ちをまっすぐに歌い上げて、涙するほど心を揺さぶるような曲もあれば、日常のことをどこまでもシビアに見つめて、現実的で脱力させてくれる曲もある。

嘘をつかない、こびない、変な期待をもたせない。真実をうたってくれて、でも突き放すわけじゃなくて、根底にはどうしようもなく愛があって。

そんな花ちゃんのうたが好きだ。

メジャーデビューするときっといろいろな環境も変わり、いろいろな大変さも出てくるんだろうなあと素人ながら思う。

それでもあなたの歌声に、ひっそりと、心から救われてきたひとがいるよということを記しておきたくて、このnoteをそっと置いておく。

花ちゃん、ありがとう。どうかこれまでもそのままで。

いつか娘と一緒に、ライブに行きたいです。

(おわり)


P.S.もし赤ちゃん育児中の方がこれを読んでくださっていたら、よろしければぜひこちらも。関取花ちゃんの曲が、現実を肯定して、ため息もまるごとくるんで、どうしようもない感情を励ましてくれる曲なら、iimaの曲はほっこりと、子への愛情や、時をともにできることの喜びを、何度でも思い出させてくれる曲たち。どちらもとても大切で、大好きです。


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書き撮るひと@福岡。熱くも冷たくもない常温の日常エッセイを集めた定期購読マガジン『とるにたらない話をしよう』運営中。ライターと家事と育児と。日常、育児、夫婦、食、暮らし、生き方、多様性、旅、ワーホリその後。ただいま2歳児に親育てられ中。