見出し画像

語感とチョコ菓子

確定申告の作業をしていたとき、ちょいと甘いものがほしくなってお菓子の入った戸棚を空けた。

ポッキーの真っ赤な大袋が目を引く。

自動的に、その中に入った小袋に手が伸びる。

ポッキー。

脳内でふとつぶやいた瞬間、「すごい」と思う。

つぶやくだけで、この気楽さはなんだ。

ついさっきまで会計処理の小難しい画面と向き合っていたから、よけいにそう感じるのかもしれない。

あの世界って「勘定科目」やら「源泉徴収」やら、どうしてやたらと画数の多い漢字の羅列ばかりなんだろう。意味より前に、画数の多い漢字の「字面」が視覚的にわたしをはばむ。人間の面でいうならしかめっつらだ。

ポッキー。

ポッキー。

ポッキー。

その点ポッキーの軽やかさといったらない。

ポッキー。

気持ちを、三段階ほど上にふわっ、と引き上げてくれるこの感じ。「勘定科目」や「源泉徴収」のトーンから、「ポッキー」のトーンへ。ふわっ。

ポッキー。

意味もなく繰り返したくなる。

ああ、これがロングセラーのネーミングというやつなのか。

わたしはひどく感動して、手元のポッキーをまじまじと見つめた。

「チョコ菓子」というだけで物質的に癒やしアイテムなのに、ネーミングがさらに心を軽くしてくれるとは至れりつくせりだ。

他のチョコ菓子もそんなふうだろうか、と思いを馳せる。

パッと思いついたのは、「トッポ」そして「プッカ」。

このあたりは語感的にポッキーと「仲間だな」という感じがする。半濁音と促音がどちらも入っていて、3文字と短い。明るく軽やか。

ここから先は

1,926字
どうでもいいことをすごくしんけんに書いています。

<※2020年7月末で廃刊予定です。月末までは更新継続中!>熱くも冷たくもない常温の日常エッセイを書いています。気持ちが疲れているときにも…

自作の本づくりなど、これからの創作活動の資金にさせていただきます。ありがとうございます。