語感とチョコ菓子
確定申告の作業をしていたとき、ちょいと甘いものがほしくなってお菓子の入った戸棚を空けた。
ポッキーの真っ赤な大袋が目を引く。
自動的に、その中に入った小袋に手が伸びる。
ポッキー。
脳内でふとつぶやいた瞬間、「すごい」と思う。
つぶやくだけで、この気楽さはなんだ。
*
ついさっきまで会計処理の小難しい画面と向き合っていたから、よけいにそう感じるのかもしれない。
あの世界って「勘定科目」やら「源泉徴収」やら、どうしてやたらと画数の多い漢字の羅列ばかりなんだろう。意味より前に、画数の多い漢字の「字面」が視覚的にわたしをはばむ。人間の面でいうならしかめっつらだ。
ポッキー。
ポッキー。
ポッキー。
その点ポッキーの軽やかさといったらない。
ポッキー。
気持ちを、三段階ほど上にふわっ、と引き上げてくれるこの感じ。「勘定科目」や「源泉徴収」のトーンから、「ポッキー」のトーンへ。ふわっ。
ポッキー。
意味もなく繰り返したくなる。
ああ、これがロングセラーのネーミングというやつなのか。
わたしはひどく感動して、手元のポッキーをまじまじと見つめた。
*
「チョコ菓子」というだけで物質的に癒やしアイテムなのに、ネーミングがさらに心を軽くしてくれるとは至れりつくせりだ。
他のチョコ菓子もそんなふうだろうか、と思いを馳せる。
パッと思いついたのは、「トッポ」そして「プッカ」。
このあたりは語感的にポッキーと「仲間だな」という感じがする。半濁音と促音がどちらも入っていて、3文字と短い。明るく軽やか。
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