神のお告げ

ある休日のこと。
午後から友人たちと会う予定だったので、朝はまったりすごそう・・と思っていたのだが、ちょっと体を動かしたくなった。それまで、のたりくたりと過ごしていたのに、動き出すとあれやこれやとやろうとする欲が出る。ジムを予約して、友人に時間の確認メッセージを送り、天気がいいからシーツを洗って、その間にスープを軽く飲んで、服の下にジム用のウェアを着た。食器の洗い物は間に合わないけれど、洗濯だけは干しておきたいから、洗濯機があと一分というところから、洗濯機前に立って止まったと同時に取り出すという気合慣れない入れっぷり。なんという素晴らしい動き!と思ってご機嫌だったが、そうはうまくいかないのが人生。鞄を持ってコートを羽織って靴を履いて、家を出ようとしたところでつまずいた。

自転車の鍵がない。。

普段かぎを入れているカゴ、コートのポケット、カバンなどをひっくり返して、とにかくありとあらゆるところを探すがない。自転車やさんから借りた代車(しかも電動自転車)なので、スペアキーも持っていないし、余計に焦るがないものはない。昨日の服も全部探したあたりで、時間切れになりそうだったので、ジムに電話をしてさっき予約したほやほやの予定をキャンセルしてもらう。それだけでもしょんぼりなのだが、なんせ借り物の自転車の鍵なので、流石の私も笑いにならない・・と思い始めた矢先、友人からの午後の予定の時間の連絡が入る。友人たちに返事を書きつつこの騒動をお知らせすると、この私の捜索劇に慣れっこの友人たちは「〇〇みた?」「あそこじゃない?」と提案してくれるが、捜索の経験値で言えば私の方が上なので全て確認済み。絶対に入っていないであろう化粧ポーチの中までチェックするという徹底ぶりだったのだ。しかも、ポーチの中で詰め替えた液体のファンデーションが溢れて、ポーチがドロンドロンになるという悲しい事件付。

ポーチを洗って、また部屋に戻ってきて、再度鞄の中をひっくり返し、ポーチやジム用グッズの袋まで全て中身まで出して並べた。それらを目の前に、友人たちに報告していたあたりで、なんと、その机の上に鍵がポツンといたのが目に入った。ちょうど着替えの下着のあたり。何度も何度も見た(つもり)の場所だったので、おもわず誰か小人さんが机の上にそっと置いたんじゃないかと本気で思ったくらいである。なんなんだろう。

友人たちに発見の報告をし、鍵は机の上のわかりやすい場所に置き、無駄になったトレーニングウェアを脱いだついでに、お肌のお手入れなんぞをのたりくたりしていると、あっという間に二時間以上たってしまった。友人宅に向かう準備をして、荷物を鞄に全部入れて、玄関でコートを着てブーツを履いたところ・・・

まさか・・・
まさか・・・
鍵がないー!!!

玄関で鞄をまた2回もひっくり返し、化粧ポーチも、部屋にも戻り、さっき使っていた化粧品カゴも筆箱も見たけれど、かつて自転車の鍵がふたつも入り込んでいたブーツも、玄関で並んでいる他の靴も、全て探ったけれどなかった。友人たちにおずおずと状況を説明するメッセージを送り、おそらく電話の向こうで大笑いをしつつも励ましてくれる友人たちを感じつつ、本気で小人がいるんじゃないのか、自分は本当に壊れてしまったのではないだろうか、と撃沈しつつ家の中を当てもなく歩いていた。これは、もしや私に家を出るな、という神のお告げでは?と真剣に思いつつ、とにかく借り物の鍵を見つけなくては・・とウロウロしていたところ発見された。

・・なぜか、洗面所に。
しかも、今読みかけの本の帯と一緒に。
全く状況が推測し難い場所で、全く繋がりのない相手と一緒にいたのである。

私は今日、本当に家を出ていいんだろうか?と自問自答しながらも、家を出ることにした。その後は何事もなく、どちらかというと嬉しい出来事もあって夜中家に無事に帰って来れた。どうやら神のお告げではなかったらしい。


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