たかつきスクールジャズコンテスト

1/16(日)
(少し期間が空きましたが)たかつきスクールジャズコンテストを見に行ってきました。

このコンテストは近畿一円の中高生の部活ビッグバンドを対象に行われているコンテストで、上位2校は、毎年ゴールデンウィークに開催される約13万人規模のジャズイベント、
高槻ジャズストリートのメイン級ステージへ出演できます。

今年で第14回となり、僕も高校生のころ、2年間出場しました。
特に2年目は、準優勝に当たる賞を受賞でき、とても思い出に残っている大会です。

大学以降もずっとビッグバンドを続けていますが、大学時代は人数不足やコロナの影響でコンテストに出場する機会はなかったので、自分がビッグバンドに所属して出場した、最後のコンテストでもあります。

コロナ禍を挟み、一時期は中止されたり、オンライン開催になっていたりしたのですが、昨年から完全復活。
今は見に行く側として、毎年楽しみにしている大会です。

今年のたかつきスクールジャズコンテスト、
全体を通して思ったのが、どの学校も本当に部員不足に悩まされているなということ。

出場校の半数くらいの高校が、ビッグバンドとしての標準編成の人数に達しておらず、パートが揃わない中での演奏になっていました。

しかしそんな中でも、選曲で工夫をして闘っている学校もありました。

コンテストは、“順位が付く”というのがやはりコンサートやライブとの最大の違い。
そのため、各校、自分たちの良さをどうやって生かすか、その戦略を練ってきます。

ビッグバンドは扱える音楽ジャンルも多岐にわたり、取り上げる曲によって、演奏者に求められる能力も、聴き手に与える印象も大きく変わります。
同じ譜面でも解釈や魅せ方に“幅”があります。

そこにそれぞれのバンドサウンドの特長が出るし、その“幅“を利用して、いかに自分たちを良く魅せるか、という戦略で結果は大きく左右されます。

競技として見たとき、戦略次第ではジャイアントキリングも十分に起こりうる面白さがあるのです。

そして、こういったジャズコンテストのもうひとつの魅力が、各バンド、演奏が終わった直後に会場で審査員による講評が聞けること。

客として見に行っている側の立場からすれば、
自分が聴いて思ったこと、感じたことを、その場その場で一流のプロの見解と、いわば“答え合わせ”ができます。

特にこのコンテストは、審査員による講評の時間が少し長めなので、関西の地元の大会らしく、アットホームな雰囲気のもと、非常に勉強になる話がたくさん聞けて面白いです。

審査員のコメントで印象に残ったことはメモをしていたのですが、今年、特に複数の審査員が色んなバンドの講評で何度も繰り返しておっしゃっていたこと。

それは『音ネタ(原曲の音源)を百万回聴け』ということでした。

最近の中高生は“楽譜脳”に陥っている。
本来は音楽は“音が先、楽譜は後”のはずなのに、楽譜だけを見て演奏しようとしている若者が多い、ということをはっきりおっしゃっていました。

楽譜には表されているのは最低限の表面的なものでしかなくて、グルーヴ感や息遣いなどの曲の真髄は、原曲の音源を聴き込まないとわかるわけがない、というお話を何度もされていました。

やはりジャズって譜面では示しようのない“定石”のようなものがたくさんあるし、それは音楽の根幹に関わってくるものでもあるので、本当にその通りだなと思いました。

今回、高校の部では8校出場していたのですが、特に印象に残った学校が、京都府立鴨沂高校でした。

この学校は初出場で、なんと吹奏楽編成。
ビッグバンドのコンテストに吹奏楽部が出場している場面は、過去にも何度か見たことがあります。
しかし、文化も語法も演奏スタイルも全く異なるジャンル故、どうしても浮いてしまっていたし、場違い感が拭えない状況になっていることが多いです。

しかし、今回の学校は、まずホーンセクションが、ビッグバンドスタイルのサックス5本を最前列に持ってきた直線4列配置。

ビッグバンドサウンドに近づけるように、おそらく配置や編成もかなり工夫されていて、
大事な場面はTp、Tb、Saxで固めながら、ユーフォやチューバ、木管といった他の楽器が支えるという、バランスがとても素晴らしかったです。

サックスの後ろに常設のフルート、クラリネットなどが1列控えているのが面白く、それにより表現の幅がかなり広がっていました。

そしてなんと言ってもアンサンブルの緻密さが段違い。
こういう基礎力やアンサンブル力は、やはり吹奏楽部の真骨頂。

“音を合わせる”ことで言えば、ビッグバンドよりも普段吹奏楽をやっている方々のほうが数段上のように感じます。

ラテンとスウィングのビートの切り替えなども、リズムセクションがきっちり仕事をしていて、指揮依存型ではない自主性が光っていたし、
特にスタンドプレイのサックスソリは、奏法もサウンドも、ビッグバンドジャズそのものでした。

一般的な吹奏楽部がなんとなくジャズにも手を出してみました、というようなレベルでは全くなく、もっと順位が上の方でも良かったのではないかと個人的には思いました。

他にも、兵庫県立国際高校、
奏者が揃わない中、ブラスをTp×3、Tb×1の4本にして、金管で基本となる4和音が演奏できるように配置。
そして、サックスがメロディ、金管が主に打ち込みと迫力のTutti、というビッグバンドジャズ定番の構成ではなく、
4本揃えた金管が主体となって、序盤からメロウなメロディを続けるという1曲目の選曲。

これはフル編成と比較して、人数の都合上、どうしても金管の音圧では不利になってしまうのが避けられない中、他と対等に戦うための戦略としてベストだったと思うし、2曲目の他の学校が絶対に選んでこないような現代的なコンテンポラリーを選んだのも、最高でした。

不利な土俵に上がるのではなく、自分たちの特性に合わせた勝負の仕方、という戦略面で大勝利だったように思います。

その他、大阪府立泉陽高校の伝統のファストナンバー。
♩=300の演奏は圧巻だったし、あのテンポでソリストのレベルもめちゃくちゃ高くて、Tpの方の個人賞も納得。

名古屋市立向陽高校のBuddy Richナンバーの、あのハイノートと勢い、
京都府立工業高校のSing Sing Singのドラムの方の安定感、

書き出すと書ききれないのですが、各校の個性と工夫のぶつかり合いが本当に面白かったです。

また今回残ったのが、演奏後のある審査員コメント。
リードTp、冒頭のHigh Fを見事に当たっていたと思います、と褒める一方、
サックス隊に向かって、「その時の後ろのトランペットの気持ちを考えたことがありますか?」と。

その審査員はサックスプレイヤーの方だったのですが、
「サックスはボタンがたくさんついていて何でもできる、これはなんと裕福な楽器か」とおっしゃっていました。

金管は少ないボタン(ピストン)で体を張ってハイノートを絞りだしている、
「トランペットが冒頭のハイノートを当てた後、そのまま救急車で運ばれていくような事態を避けたければ〜」などと、ユーモアたっぷりの表現で、全体のバランスやそれぞれの見せ場を考え音量を下げる(譲る)など、一種の“思いやり”の大切さを語られていました。

あのめちゃくちゃカッコいい原曲ライブ音源、YouTubeでは切り取られて1曲単位で上がっていますが、あれは2時間(ぶっ続けの)ライブの中の1曲です。
ともおっしゃられていました。

ビッグバンドジャズって他ジャンルに比べて、音域に関してはかなり過激な音楽です(笑)
長く安定した演奏を目指すには、ただがむしゃらに演奏するだけでなく、プログラム全体を俯瞰したうえでの体力配分や、他楽器への配慮が必要だ、というコメントは、
特にコンテストにおいて、若さに任せて1曲(2~3曲)にだけ集中しがちな中高生に対してのコメントとしては、とても大きな意味を持つものだと感じました。
(審査員コメント受け取り方は、一部僕の自己解釈も入っていると思います)

最後に優勝校、伊丹市立伊丹高校は、毎年のことですが、もう圧巻で他とは大差でした。
選曲もコンテンポラリー寄りで、通常高校生が演奏するような曲ではないし、大学バンドとも対等に張れると思います。
完璧過ぎて、僕がコメントとかできるレベルではなく、本当に素晴らしかったです。

ただ、ここまではっきり独走状態だと、結局他のバンドは正攻法ではなく、何か飛び道具や変わり種をやるしかない。

僕が現役でコンマス時に出場したときは、当時まだ高校生ではあまり取り組まれていなかったコンテンポラリーや、他がやらないそれぞれの管ソリが続く曲を選び、審査員の印象に残す作戦を立てました。
そして格上相手になんとか2位に当たる賞をもぎ取ったのは、ひとつの思い出です。

それも自分たちのバンドの特長を客観視し、他と差別化できる魅力は何かと考える上ではとても良い機会になるとは思うのですが、それにしてもあまりに差が大きくなりすぎるのは、大会運営的にどうなんだろうなぁ、と少し思ったりもしました。

演奏は本当に素晴らしくて感動したし、あのバンドの演奏がトリで聴けるだけでも毎年見に行きたいと思っているくらい僕も大好きな学校なので、演奏されている方々には本当に敬意しかないですが、少し周りに比べ“強すぎる”域に入ってきたのかなぁとも思いました。

優勝校と(実質的に準優勝に当たる)FM COCOLO賞を獲った学校は、高槻ジャズストリートで演奏を聴けるのですが、それも本当に楽しみです。

一時期コロナで、高校ジャズ界隈が、大学の学バン界隈に比べて、壊滅的な影響を受けているように感じる時期もあったのですが、見事に復活の過程にあるような気がして、自分も出身者としてとても嬉しかったです。

僕も自分が高校卒業してからしばらくは、出場校にソロ譜書いて、その人が個人賞獲ってくれたりなど、数年は間接的に関わりがあったのですが、もう今は知り合い誰もいないのが老いを感じますね。笑

来年もまた見に行けたらなと思います。

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