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諸悪の根源〈LAMY safari〉

2004年の夏。

当時、私は修士論文の執筆に明け暮れていた。
来る日も来る日も書いては消し、書いては消しの繰り返しだった。
そんな生活を送る中で、自分の中に少し違う風を入れたいな…と考えていた。とはいえ、論文中心の生活ではできることなど限られている。そこで、「どうせ校正は原稿に手書きでしてるんだから、それを赤いインクの万年筆でやったらいいじゃん!なんか文豪っぽいし!」と思い立ち、早速文房具屋へと足を運んだ。

この思い付きが運の尽きだった。

セーラー、パイロット、プラチナ。
ペリカン、アウロラ、モンブラン。

かっこいい…。しかし、どれもお高い。
正直、初心者の思い付きで買える代物ではなかった。
そんなときに目に飛び込んできたのが、LAMYのsafariだった。オレンジの軸に赤いクリップ。直線と曲線が、いい塩梅に混じり合ったデザイン。

かわいい…。そして、値段も手頃。

意気揚々とそのサファリを手に、近くの喫茶店へ行き、プリントアウトしてきた原稿に早速ペンを走らせた。

書きづらい。

色々調べてみると、そもそもsafariはドイツでは日本の書き方鉛筆のような位置付けの文具で、小学校へ進学する際に国から支給されているらしい。…ふむふむ。
しかも、万年筆は持ち主の書き癖がペン先に着く(厳密にはニブ先が書き癖に合わせて摩耗することで、その人の筆致に合わせたインクのフローが良くなっていく)まで掠れたりするものらしかった。…ふむふむ。
さらに、safariのペン先はスチール製なので、お高い金製のペンに比べるとかなり書き味が硬いとのことだった。…ふむふむ。
おまけに、今回買ったのはsafari誕生25thの記念カラーモデルだった。…ほほん。

…これはおもしろい。書きにくいけど。

吹くわ吹くわ、新しい風が。
暴風警報になるまでに、それほど時間を要さなかった。

かくして、私は〈万年筆沼〉に足を踏み入れることとなる。

ともあれ、その後のことは省略するが、結果初めてsafariを手にしたあの日から16年を経て、いま私の手元には30本以上のsafariがある。
当時定番品であった黒クリップのモノから、日本限定、ドイツ限定、スウェーデン限定…云々。そのほとんどはインクも通していない。

ただ、あの日買った抜群に書きやすい、諸悪の根源たるsafariだけは、傷だらけの姿でコレクションの1番先頭を今でも飾っている。

さて、次はなにを書こうかな。

店主

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