あと語り 承

-クリスマスまで残り2週間!
今年もたくさんの人々が街でクリスマスを楽しむはず!
そこで今年イチオシのクリスマスアイテムをピックアップします!

「私、あなたと離れて山岸くんと結婚するわ」

「山岸くんって、あの山岸のこと?」

「そう、あなたが今頭に浮かべてる山岸くんのこと」

「山岸って、いきなり・・・なんでまた・・・」

街は一気に忘年会シーズンに突入し、繁華街を歩く人並みは激しい。

バイト先のラブホテルもこの時期は途端に人の入りが激しくなって、常に満席の状態だ。

フロントにぼっと座って『ただ今満席です」と客に伝えるだけのお仕事の中、君から届く連絡に目を通す事がしんどい。

ドギマギと来店してくるカップルと、事終えて火照りを隠さず出て行くハゲ散らかしたおじさんと風俗嬢。

人の交わりの最前線にポツリ置いてきぼりの僕。

やっぱり、忘れてないよなあ。

正直このまま黙って年を越して、何事もなかったように今年が終われば、全てが元通りになるかもなんて。

浅はかである。

「仕事探すから、考え直してくれ」

「結婚してほしい」

文面には起こしてみるものの、送信する勇気もない。

打っては消して、打っては消しての繰り返し。

この期に及んでなんて意味のない時間なのであろう。

そんな大切な事、こんな形で伝えて良いのか。

なんて。

そもそも勇気が無かっただけじゃないか。

僕の連絡に既読がついて、君からの返信は止まる。

このまま君と僕が別れたとして、来年で36歳。

仕事は売れない小説家で、バイトはラブホテルのフロントマン及び清掃係。

今更気を入れ直して全部0からやり直す労力と気力なんて、圧倒的に持ち合わせているだろうか。

そんな事が出来るのなら、とうの昔にこんな状況に陥ってはいない。

大体にして、人にも自分にも甘えてきた人生なのである。

ビビりな事が幸いして、ギャンブルも借金もせず人並みに暮らすだけの平凡な暮らし。

田舎の父も母も普通の親で健全な幼少期。

作文だけが得意で、物書きをしているときが一番の幸せ。

ただ漠然と、何の気もなしに、上京してみて、結局やりたい事が見つからず、ダラダラと「書く」ことをしてきただけの人生。

仕事も目的もなく、ただ生きれたら良いという気持ちで転々とした。

付き合ってきた女性たちも、自分の人生を見つめ直して、僕の元から去っていった。

それでも何故か、女性に困る事はなかったから、寄生しながらここまでやってきた人生。

やっぱりどう考えたって詰んでるじゃないか。

「ごめん」

今更何の足しにもなりはしない3文字の乾いた言葉。

絞り出した結果、語彙力も何も感じない自分の文才と発想力のなさすらもバカバカしい。

「あのー・・・部屋空いてますか?」

小太りの男が僕に声をかける。

「すみません、今満室です」

僕は俯き加減でボソリと答える。

「そうですか・・・」

相方の女性は足早にホテルを出た。

その背中をぼんやり見つめて、ため息が外気に触れたような重さで口から漏れる。

「終わったな」

終わらせなければいけないのは、営み終えて部屋を後にした残りの後処理である。

しかし、膝から下の血の気が引いて立ち上がれない。

僕と君の関係が終わるまで、あと15日。

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