アサーティヴ・リスニング(調律的傾聴)

積極的傾聴と呼ばれるのに、教科書を読むと受動的に見えますね。
何もしゃべらず「ふんふん」話を聞きましょう、とか。
それのどこが active なんだろうか。
アクティヴですよ、アクティヴ。
もっとバシバシ行動的じゃないとアクティヴにならないじゃないですか。
なんで「ふんふん」言うのがアクティヴなんですかね。

まあ、そんな不満があるわけで。
積極的傾聴 active listening のニュアンス、間違ってるんじゃないか。
アサーティヴって呼んだほうがまだ伝わると思いました。
ソルターの始めたアサーティヴ・トレーニング。
あれは初め feeling talkと名乗っていたので、とてもロジャーズ的なアプローチです。
しかも行動療法の中核になっている。

アサーティヴはfeeling talkなので、気持ちを話すところがポイントです。
客主提選の「主」のところ。
主観的な感想を他者に対して述べる。
すると身体が弛緩し、心理的な負担が低減する。
そうした効果を狙っています。

でも、自分の気持ちばかり話しても、相手には伝わりません。
なぜそんな気持ちになるのか、とんとついていけない。
その気持ちの背景が見えてこない。
それで「客」のところ、客観的事実を枕に据えます。
相手が「確かにそうですね」と同意できる、共通の事実から始める。

あと、気持ちだけ言っても「だから何だ?」と相手は戸惑う。
具体的な対応策を「提案」として添えます。
「そうなるといいなあ」と共感してもらえる行動を示す。
気持ちを伝えてから、自分の希望を提案する。

でも、そこで終わると、押しつけになります。
これだけでは対話にならない。
相手に「どう思いますか」と選択権を委ねる。
自分がfeeling talkをしたあと、相手にもfeeling talkをしてもらう。
そのための時間を設けます。

定石にすると「客→主→提→選」。
形が崩れることはあっても、対話の基本形はここにある。
傾聴するにしても、この流れを意識すると
「今どこの話をしているか」を見失うことはありません。
そして堂々巡りがほどけていきます。
クライエントの表情がイキイキしてくる。
なかなかいいじゃないですか。

初めは客観的な事実を尋ねる。
「どんなことがありましたか」。
起こった出来事を聞いていく。
話が抽象的になったり、感情が先行するようなときは
「具体的にどんなことがあったのですか」と尋ねてみる。

客観的な事実を追体験できたら
「あなたはそれをどう感じましたか」と主観的感想に移る。
「今の気持ちはどう?」と聞くのは嫌がらせですから、
そうならないように注意してください。
話すことで気持ちが楽になるように尋ねるところです。

秘密にした方がいいこと、デリケートな領域は
「そこは大切なところですから踏み込みません」と伝える。
気持ちの準備ができてから話してもらえばいい。
話にできそうなところを話にしてもらうことです。

気持ちを話すことで緊張がほどけてきたら
「どうなるといいでしょうか」と提案に入ります。
その人の希望を尋ねる。
これはニーズではないですね。
小手先の行動ではありません。
「こうなるといいのになあ」という夢を尋ねます。
思い描いてもらうのは「状態」です。
催眠療法なら順行性催眠と呼ばれるところ。
システム療法の「奇跡の質問」と同じです。
リラックスした状態を思い浮かべ、その未来を描写してもらう。

そして、選択。
クライエントに「話してみてどう思われますか」と尋ねる。
選択権をクライエントに返す。
新しく気にかかることが湧いてきたら、そちらに焦点を移す。
そして再び、客主提選の「客」の段階に進みます。

これがアサーティヴ・リスニングです。
心理面接で話をすることが、そのままアサーティヴになっている。
自然とアサーティヴ・トレーニングをしている。
クライエントにアサーティヴを体験してもらう機会になります。
話すうちに気持ちが調ってくる。
情動調律が狙いです。
もちろん、それが苦しそうなら別のアプローチに変えますけど。

ロジャーズが実際にやっている面接を見ると、これに沿っています。
「客ー主」のところに時間をかけるとフロイト風ですね。
「主ー提」に力点を置くとナラティヴやシステム療法になる。
心理療法のベースにはアサーティヴが隠れています。

あと、セラピスト側もアサーティヴであることでしょう。
ただ話を聞くだけじゃない。
一通り聞いてから、自分の理解が正しいかどうかを尋ねます。
正しければクライエントは「伝わった」と思い、次の話題に進むし、
間違っていれば「それは違います」と訂正してもらえる。

この、セラピスト側の理解を伝えること、
いわゆる「解釈」や「ブリッジ」の部分もアサーティヴです。
「今日は、こんな話をしてきました。
 それについて私はこんな感想を持ちました。
 こうなるといいのになあ、と願います。
 それについて○○さんはどう思われますか」。
これは形式じゃないですね。
feeling talkです。
「私は私の気持ちを大切にします。
 同じように、あなたの気持ちも大切にします」
そうしたメッセージが伝わるように話すこと。

そう考えると「傾聴」を理解しやすくなりませんか。

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