ストレス脆弱説は面接の基本である

長く心理面接をしてきてあまりぶれなかったものに、ラザラスの「ストレス脆弱説」がある。
精神症状の発生の仕方を公式化したものだ。
単純だけれど、奥が深い。
経験を重ねるたび「そういうことか」と気づく。
この仮説を数式っぽく表現すると下記のようになる。

(生得的脆弱性 × 環境ストレス)/心理的対応力 = 精神症状

精神症状は三つの変数の関数とみなされる。
それぞれの変数を見てみよう。

1. 生得的脆弱性
誰もが身体のどこかに脆弱性があり、ストレスがかかるとその部分が反応する。
生まれつきの気質が人によって異なっているので、ストレス反応も多様になる。
シェルドンの三気質説がアプローチの参考になる。

・内胚葉系
胃腸など消化器が敏感な人。
ストレスで便秘や下痢になりやすい。
一般に気質に合ったものがプラスの体験になる。
内胚葉系の人は程よい食事がプラスになることが多い。
ただ、憶測は禁物である。
これまでの経験を聞き、その人が幸せを感じる体験が増えるのが肝心。

・中胚葉系
循環系や筋肉の緊張に出やすい人。
過呼吸になったり、心臓がドキドキしてパニックになったりする。
緊張が頭痛や肩こりで表される場合もある。
リラックスを覚えようとするとかえって頑張りすぎてしまう。
軽く疲れるくらいの運動をするほうがプラスになる。
もちろん、これも人によって異なる。

・外胚葉系
肌の敏感さや神経の不安定さに出る人。
気が沈んだり浮ついたりするのも身体反応である。
昔だと「神経質」と言われるタイプの人も多い。
映画を見たり本を読んだりすることがプラスになる。
自分で絵を描いたり文章を書いたりする。
ひとりのほうが落ち着くが、肌の合う友達が見つかれば、なお良い。

この三気質説は仮説の域でしかないので、正確にはクローニンガーの神経間伝達物質を基にした気質説のほうがいいかもしれない。
ただ、クライエントが直感的に理解しやすいのはシェルドンの仮説だと思う。
神経間伝達物質で語られるよりも、身体感覚に照準を合すほうがフォーカシング的でもある。

2. 環境ストレス
脆弱性だけでは症状にならない。
環境からストレスが加わることで、ある種の生きづらさが生じる。
環境ストレスはマズローの欲求段階説と絡めると見極めやすい。

・安全欲求
「守られたい」という受動的な欲求。
それが満たされないと、災害などのPTSDになる。
安全感が脅かされれば誰でもストレスだろう。
まず安全な場所の確保が優先事項である。
身体に働きかけるEMDR系の心理療法が有用となる。

・所属欲求
「愛し愛されたい」という相互的な欲求。
児童虐待やイジメに起因する愛着障害はこれだろう。
安全なだけでは人間は生きられない。
「人から愛されている」という感覚も必要とする。
この方面では精神分析の知見も利用できる。

・承認欲求
「誰かの役に立ちたい」という能動的な欲求。
これが満たされないと抑うつ感が生じる。
最近言われる「承認欲求」とは別ものなので注意。
マズローがアドラーの「共同体感覚」を参考にした欲求。

環境ストレスは「社会モデル」という考え方にも通じる。
たとえば「目が見えない」という視覚障害は身体的な障害ではあるけれど、そのことで「外出できない」という二次障害も発生していた。
この二次障害は社会的なバリアフリーによって解消できる。
点字ブロックや盲導犬、あるいはサポーターが付くことで外出できるようになる。
社会モデルとは「障害」を個人内の問題と考えず、社会的な仕組みの不具合と捉える観点である。

3. 心理的対応力
脆弱性とストレスの相関関係で「原症状」が生まれる。
ただ、人間は無力ではない。
その原症状に対し、何らかの対応策をとっている。
それを「コーピング」と呼ぶ。

コーピングについてはリンダ・スキナーの分類が役立つ。

・認知コーピング
認知療法で扱う対処法。
感情は体験から直接生じるのではなく、体験の解釈によって生成されると考える。
「嫌がらせであんなことをしてくる」と考えれば不快だが、「何か事情があるのかもしれない」と考えれば冷静に対処できる。
システム療法のリフレーミングに通じる考え方。

・行動コーピング
問題解決療法の考え方。
状況を分析し、環境に働きかける。

重要なのは、問題行動もまた行動コーピングの一種と見ることだ。
たとえば不登校という行動も、何か原症状があり、それを回避するための対応策かもしれない。
問題行動を無理にやめさせても何も解決しない。
しばらくすれば再発するだけである。
原症状を把握し、適切な目標設定をすることが大切である。

・対人コーピング
いわゆる「ソーシャルスキル」。
人に尋ねたり頼んだりすることで対処する能力のこと。
人間一人ひとりは弱い存在であり、得意不得意がある。
何もかも自分で背負い込んでは無理が生じる。
不得意なところは得意な人に補ってもらえばいい。

以上の三変数を面接の中心に置く。
クライエントの気質に合わせたアプローチをアレンジする。
環境ストレスを尋ねながら、どの欲求が阻害されているか仮説を立てる。
どのタイプのコーピングが今使われ、それを伸ばすにはどうすればいいか方針を決める。

ストレス脆弱説を基本にすると他の技法も位置づけやすい。
それについて次回考えてみよう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?