「みんなに当事者になってほしい」。海と人をつないで、ミライを一緒に考える—三重県南伊勢町・橋本純さん
「海業」(うみぎょう)という言葉を知っていますか?
これは海や漁村の地域資源の価値や魅力を活用する事業のこと。海業は漁村地域に活気をもたらし、さらには所得と雇用を生み出すことが期待されます。体験漁業や直売所、レストランの運営などがこれにあたります。
漁業が盛んな地域に足を運んでもらい、海と共にある暮らしを体験してもらう。
橋本純さんは、現在推し進められている"海業"の先駆けとも言える取り組みを20年以上前からすでに行なっていました。
Uターン後、家業を継いで漁師に。漁、養殖のほかに体験プログラムも
橋本純さんは、三重県南伊勢町で暮らしています。
おじいさんの代から漁師の家。18歳で実家を離れてからは大学で建築を学び、卒業後は世界のあちこちを巡っていたそう。
その後帰国し、漁師に。久しぶりに帰った故郷の衰退ぶりに危機感を覚え、建て直しを図ろうとUターンを決意しました。
メインは真鯛の養殖、そして小型の定置網漁。三代目の漁師として屋号を背負う橋本さんですが、取り組んでいるのは養殖や漁だけではありません
2001年に開始したのが、漁師体験、磯遊び体験の提供。2015年には漁村インターンシップの受け入れスタート。2017年には漁師のいるゲストハウス「まるきんまる」をオープンしました。
養殖イカダの中で真鯛と一緒に泳ぐ"鯛になるタイ験"といったユニークなプログラムも。
数々の体験事業を手掛ける橋本さん、その根底にあるのは「みんなに当事者になってほしい」という思いでした。
体験を通して伝えたいこと。「日本の海が抱える問題を自分事に」
2001年に始まった漁師体験。かつて橋本さんのもとを訪れた子ども達が大学生になり、社会人になって再訪してくれることもあるのだとか。
子どもの時に見た海、あの頃に体験した漁、それらは大人になってからも、しっかりと記憶に刻まれているようです。その証拠として、彼ら、彼女たちは、海の環境が大きく変化していることに気付いてくれるのだそう。
南伊勢町で生まれ育った橋本さんは、幼い頃から慣れ親しんだ海の変化を肌で感じられています。それと同時に強い危機感を持っている、とも。
実際に日本の漁獲高は減少の一途を辿っています。でもそれを理解している消費者は少数。スーパーに行けばいつも魚が並び、消費者にとってはそれが当たり前。日本の海から魚が消えていることを実感する機会があまりありません。
体験プログラムの参加者には「実際に体験することで当事者になってもらいたい」と言う橋本さん。そのためにはまず、知ってもらうこと。
昔は近くの海を泳げばサザエやアワビが捕れた、でもここ何年間は皆無。
慣れ親しんだ海ではもう見つけられない、捕れなくなってしまったものがたくさん。
今深刻なのはエサ問題。今までは養殖の魚を魚で育てるのが普通だったけれど、今はエサになる魚が足りていない。
日本には今13万人くらいしか漁師がいない。日本人の1000人に1人という割合。
漁師の平均年齢は60歳近く。10年後には1万人に1人くらいの数になってしまうかもしれない。
日本の漁業が抱える様々な問題をより多くの人々に知ってもらい、自分事として考えてほしいと言います。
「僕たちは海を間借りしている」。橋本さんの考える自分の役割とは
橋本さんの取り組みは多くの人流を生み、その功績からポケマルチャレンジャーアワード2023の年度テーマ最優秀賞に選出されました。
「僕たちは海を間借りしている。海と人をつなぐ役目を果たしていきたい」と語ってくれた橋本さん。
今後の漁業について一緒に考えてくれる仲間を増やしていけたら。そして、自分の活動が未来を作ってくれると信じて。
橋本さんはこれからも、国内外多くの方々に学びの場を提供していきます。
(執筆:PR 西宮)
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