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人々が自らの意思で活発に行き来する「人口流動社会」の提言—5/10 衆議院農林水産委員会 参考人質疑(執筆:高橋博之)

国会の衆議院農林水産委員会の参考人質疑に立ってきました。農政の憲法と位置付けられる食料農業農村基本法が四半世紀ぶりに改正され、その関連3法案の審議の一環です。

地方の過疎の原点は、敗戦後の集団就職列車です。当時の労働省の要請により、県と国鉄が協力して仕立てた運賃免除の臨時列車で、金の卵と言われた地方の少年たちを乗せると、途中の駅には一切停車せず、就職先の企業が待つ上野駅や大阪駅、名古屋駅へ直行しました。1954年に始まり、1975年3月25日、最後の列車が374名の岩手県の中学卒業生を乗せ上野駅に到着するまでの22年間、さながらベルトコンベアのごとく、膨大な若年労働力を地方から大都市へと輸送し続けたのであり、戦後日本の経済発展にとって不可欠とされた役割のための、まさに国家的プロジェクトでした。そして、彼らは帰ってきませんでした。

この国策があたり、日本は世界に奇跡と言わしめる経済成長を成し遂げたので、当時は合理的な策だったと言えます。でも、これだけの長い期間、地方の若者たちを大量に大都市に送り込み続けた国は類を見ません。そして、その必然的帰結として、都市と地方は分断しました。当時、地方からの移民1世としてトーキョーの住民になった人々も今や移民3世、4世と世代交代が進み、もはやかつての故郷に関わりがなくなってしまった人々、帰る故郷がない人々が東京一極集中の中にいます。その一方で、地方の農山漁村はすっかり寂れてしまいました。

関わりがなければ、関心も興味も生まれず、他人事になってしまいます。当然、価値も理解できない。日本の地方と一次産業の衰退の根底には、この都市と地方の深い分断、生産と消費の深い分断が大きく横たわっています。

日本は今、地方を、そして一次産業を立て直す必要性に迫られています。今回の農業基本法を巡る議論では、食料安全保障がクローズアップされました。戦後、日本は自由貿易に踏み出し、工業製品を海外に売って儲かったお金で食料を海外から買うことで成り立ってきました。しかし、今や国力が落ち、中国をはじめとする他国に買い負け続けています。異常気象に伴う不作やロシアによるウクライナ侵攻などを受け、食料、肥料、飼料の安定確保への懸念も現実のものとなっています。このままでは食糧危機は避けられません。となれば、残る道は、自国の生産基盤を強化する以外にないのは誰に目の明らかです。

さらなる集約化やスマート農業も、もちろんやればいい。でも、過疎化で人手が足りないから集約化やスマート農業でしのぐという受け身の発想では、延命治療、対症療法に過ぎず、持続的な農村は形成されていかないのは、これまでの農村の歩みを見ればわかります。集約化やスマート農業でできた余剰で新しい仕事をいかに農村に生み出していくのかが問われています。そのときに必要になるのが外から入ってくる関係人口との協働です。リモートワーク、ワーケーション、二地域居住などで、農村に足りないスキルやノウハウ、ネットワークを持った多様な人材が入ってこれる時代になりました。

この関係人口の桁を変えられるのは、国しかありません。戦後、国策としてやってきたことの逆を、今度はやればいい。でも、もうあのときと違い、片道切符である必要はありません。大都市に暮らしや仕事の拠点を置きつつ、もう一ヵ所、特定の地方の農山漁村に拠点を持ち、行ったり来たりしやくするように、国が環境整備、後押しするのです。

戦後のリソース配分のルールは、一貫して「リソースをまず大都市に」でした。所得を生み出すのは圧倒的に大都市なのだから、資源はまず大都市経済の基盤形成に配分し、日本として最大限の所得を確保する。そしてその所得の一部をもって地方の活性化を図る。それが全国総合開発計画に代表される戦後のリソース配分の基本的な考え方でした。しかし大都市に依存するだけでは、地方が地方のやり方で、地方の価値を最大化することは難しいです。ではどうするか。大都市と地方が、日本と日本人が持つリソースを同時に使うこととするのです。

それぞれの豊かさを追求する大都市と地方の間を、人々が自らの意思で活発に行き来する「人口流動社会」。旧来の秩序や価値基準から解き放たれた人々が、自分自身の「居場所」を求めて、つまり最も自分らしく過ごせる場所を求めて、毎週、毎月、毎年、さらにはライフステージごとに、自分がそのとき所属する社会や組織のエリアを離れて、他のエリアを訪ね、他のコミュニティに溶け込んで時間を過ごし、自分の特技を活かして生きる。人々がそのように動くことで、大都市も地方も一層豊かになれるはずだし、農村は賑やかな過疎が実現し、生産基盤も強化され、食料安全保障にも寄与できます。そうした方向性を目指したらどうか。

そんな内容の話を、意見陳述とその後の質疑を合わせて展開してきました(あっという間の3時間半!)。僕らは民間サイド、現場サイドからやります。国も動いてくれれば、大きな力になるので期待したいです。

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