生産者さんからみなさんへ 〜自然環境の変化と向き合う #カナリアの声 〜 vol.1 サバ養殖を営む横山拓也さんより
年々深刻化している気候変動。みなさんは、何か環境の変化を感じているでしょうか?
私たちの食べものをつくってくれている生産者さんたちは、自然と向き合う中で日々環境の変化を感じ、また、すでに生産活動において様々な影響を受けています。
そんな生産者さんたちの状況を、少しでもみなさんに知ってもらいたい。そして、私たちにできることを一緒に考えていきたい。
ポケマルでは、自然環境の変化に直面する生産者さんたちの声をお手紙の形にして、連載形式でご紹介していきます。自然からの警告を「炭鉱のカナリア」のように私たちに伝えてくれている生産者さんの声を、まずは知ることから、一緒にはじめませんか?
福井県小浜市でサバの養殖をしている横山拓也です。
私が養殖に関わってから4年半ほどが経ちますが、海水温は年々上昇傾向にあります。私の計測では、2016年は27℃が最高でしたが、2020年は31℃で、上がり幅が極端だなと感じています。
2020年の夏は、いけすで飼っていた7000尾のうち約4500尾が、ものの10日で死んでしまうということがありました。平均海水温が30℃を超えることはめったにないのですが、そのときは30℃超えの日が1週間ほど続いたんです。サバは高い温度に弱い回遊魚なので、一発でやられてしまいました。
サバが高い海水温で死ぬメカニズムを調べると、酸欠状態になるからだとわかりました。そこで、2021年の夏は、導入する種苗数や出荷時期を調整し、いけす1つあたりのサバの数を1500尾から300尾に減らすことで、乗り切りました。回遊魚を1箇所に閉じ込めて育てるということ自体がそもそも不自然なことではあるので、サバに対する責任として、よりよい環境を作ってあげたいと考えています。
ただ、海水温の上がり方や下がり方は毎年異なるので、毎年同じタイミングで同じ対応をすればよいかというと難しいです。気象データをしっかりモニタリングしながら、判断していく必要があります。
最近は「脂の乗り」という基準だけで魚のおいしさが判断されてしまうことが多いですが、魚のおいしさは脂を舌でパッと味わうだけではなくて、噛めば噛むほど旨味が出て、それを自分の舌で探り当てる楽しみもあります。
私たちは、求める食材や求める味がいつでも手に入ると思ってしまいがちですが、そんなことはありません。自然のものをいただいているので、ないものはなくて当たり前、季節ごとに味が違って当たり前です。
だからこそ、その時に獲れる魚や、その特性・個性を生かして食べるということを、消費者のみなさんや料理人の方と一緒に考えていきたいと思っています。「欲望のままに」というところから脱却すると、むしろ多様な食の楽しみの世界が開けてくるのではないでしょうか。
大事に育ててきた命を私たちの食卓まで届けられるように、そして経営が持続可能であるように、生産者さんはすでに起きている環境の変化に対して、徐々に適応しています。
自然との接点が少ない私たちは、その変化を自分ごととして捉えることがなかなか難しいかもしれません。でも、生産者さんを通して、変化について知ること、理解すること、心を寄せることはできると思います。
生産現場の変化は、やがて私たちの食卓の変化にもつながります。生産者さんの「カナリアの声」が、みなさんの食に対するあり方や暮らしそのものについて、改めて考えるきっかけになれば何よりです。
まだまだ知られていない、生産現場の変化のお話。生産者さんの「カナリアの声」を、ぜひ周りの方にも届けてください。
▼今回お話をお聞きした生産者さん
横山拓也 | 田烏水産株式会社 | 福井県小浜市
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