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住民票を複数持てる社会の実現を、能登半島地震の被災地から。(執筆:高橋博之)

今日から、二地域居住を推進する関連法案の審議が国会で始まりました。能登半島地震で、やむを得ず能登を出て金沢に避難、転出した人たちがたくさんいて、事実上、二地域居住をしています。妻と子は金沢で暮らし、平日能登の役場で働いている夫が週末は金沢の家族の元に帰ってくる、あるいは平日金沢で働き、週末は能登の実家に戻り復旧復興の手伝いをしている、みたいな感じで、いろいろな形で金沢と能登を行き来ししている被災者たちがたくさんいます。

他にも、東京や大阪からわざわざ週末に能登に帰ってる方々もいます。みなさん年末に里帰りして年越しをしていた矢先の元旦に被災したので、あの強烈な体験を共有しています。なので、後ろ髪ひかれながら能登を脱出し、東京や大阪の家に戻ったという方も大勢いて、当事者として故郷の再生に関わりたがっています。このようなタイミングで二地域居住の法案が国会に出てきた訳ですが、この際、能登が二地域居住の先進地になったらいいと思います。事実、被災者のみなさんに話を聞くと、それを望まれてる、いや切望されている方は本当に多いです。

僕は、石川県の復興プラン策定アドバイザリーボードの委員でもあるので、1回目の会議からこの二地域居住の推進と関係人口の創出を復興プランの柱に据えるべきだと提案し、復興プラン骨子に盛り込んでもらいました。そして先週、2回目の会議があったので、二地域居住の課題である交通費負担の軽減策についてと、もうひとつ、最大の難関である住民票の課題について、取り上げました。

法律はなんのためにあるのか。当たり前のことですが、法律のために人がいるのではなく、人のために法律があるはずです。すでに現実には、二地域居住や多拠点居住をしている人たちがそこかしこにいます。そして何より、今回の能登半島地震で、必要に駆られて二地域居住を余儀なくされている方がいらっしゃいます。現実の方が先に変わっていて、法律が追いついていない。ならば、現実に合わせて法律を変えるべきです。ましてや、これだけの震災があった非常時の被災地なのですから、こういうところから実態に即して法律を変えるような動きが出てきてしかるべきではないでしょうか。

日本が定常的に人口減少している中で、さらに都市に人口が吸い込まれ、地方はますます過疎にあえぐ流れを一切止められない中で、地域社会をどのように維持していくいのか。この難問に、現在、唯一と言っていい解が、ひとりの人間が複数の地域に主体的に関わる、関係人口です。祭りなどで定期的に来訪したり、リモートワークやダブルワーク先になったり、地域への多様な関わり方がありますが、最も地域の担い手として有力なのが二拠点居住者です。政府が、これからはこういう人たちも住民として認めますよ、とお墨付きを与えれば、元々いる住民たちの二地域居住者に対する見方が変わるはずです。つまり、「関係人口」は"概念"から地域社会を担う"頭数"へと昇華します。

都市の住民が自らの活動の場、自らが考える豊かさを求めて、大都市、地方都市、そして農山漁村の間を行き来するという人々の新しい流れ。この人口の流動こそが、地方だけでなく、大都市を、そして日本をも活性化するはずです。都市と地方の間を人が移動することは、都市に暮らす人々が地方に住処や拠り所、居場所を別途確保するということです。一方通行の大都市への人口移動ではなく、人口の循環であり、それは双方の地域を活性化させます。動き回ることによって、異質なものと出会い、個性を互いに尊重し、刺激し合って成長していく。そして既存の社会を変革し、地域社会に変化をもたらす力となっていく。

しかしそうした地域再生の実現には、リソース配分における価値観の転換が必要とされます。戦後のリソース配分のルールは、一貫して「リソースまず大都市に」でした。所得を生み出すのは圧倒的に大都市なのだから、資源はまず大都市経済の基盤形成に配分し、日本として最大限の所得を確保する。しかる後にその所得の一部をもって地方の活性化を図る。それが全国総合開発計画に代表される戦後のリソース配分の基本的な考え方でした。しかし大都市に依存するだけでは、地方が地方のやり方で、地方の価値を最大化することは難しい。ではどうするか。都市と地方が、日本と日本人が持つリソースを同時に使うこととするのです。それを可能とするのが二地域居住です。

それぞれの豊かさを追求する都市と地方の間を、人々が自らの意思で活発に行き来する「人口流動社会」。旧来の秩序や価値基準から解き放たれた人々が、自分自身の「居場所」を求めて、つまり最も自分らしく過ごせる場所を求めて、毎週、毎月、毎年、さらにはライフステージごとに、自分がそのとき所属する社会や組織のエリアを離れて、他のエリアを訪ね、他のコミュニティに溶け込んで時間を過ごし、自分の特技を活かして生きる。人々がそのように動くことで、都市も地方も一層豊かになれます。

さて今回、国会に提出されている二地域居住推進の関連法案は国交省から出ています。希望する人が二地域居住を始めやすくなるよう、市町村が促進計画を策定できる仕組みを新設し、住居や職場環境の整備に対して財政支援を行うことが柱になってます。つまり、ハード面が中心です。一方で、二地域居住先での「納税」と「投票」をどう扱うのかは、非常にやっかいな問題です。これは総務省の管轄ですが、そもそもなぜ法案作成段階で、両者の間で調整が行われなかったのか。なぜ、国交省単独で出すことになったのか。縦割り、片手落ちもいいとこです。住民の立場からすれば、セットの話です。

アドバイザリーボードの会議では、馳知事もこの点について、語気を強めて疑問を呈していました。総務省内では、この問題については長らく議論がありながらも、アンタッチャブル扱いされてきたと聞いています。税と選挙、つまり民主主義、住民自治の根幹に関わる問題であり、できれば触れたくない。すべての行政サービスの提供のベースである人口の概念を変えることにつながるので、実務的な影響が1700の自治体すべてに広がるため、及び腰になるのはよく分かります。でも、必要としている人がどんどん増えているのに、大変だからという理由は、やらない理由にならないと思います。日本は物凄い勢いで人口減少していきますが、危機感が足らな過ぎます。

馳知事はこの点をよく理解していました。以下、先週の第2回復興プラン策定アドバイザリーボードの該当する部分の議事録を抜き出したものです。ここは政治決断しかないと思うので、元国会議員でもある馳知事には大いに気張ってもらいたいです。僕らも民間サイドから、引き続き動いていきたいと思います。ふるさと納税の活用でお茶を濁すのではなく、むしろふるさと納税のゴール(出口)として捉え、新たな時代の扉をこじ開けるときです。滞在先の把握についても、携帯GPSやマイナンバーなどを活用すれば十分に可能です。

(高橋委員)

それともう一つ、二地域居住に戻るんですけど、今、能登から金沢に転出した人が金沢市に転出届を出す、住民票を移す。どんな気分だと思いますか皆さん。皆さん転出届を出された経験がありますか。「あぁ金沢の市民になったな私。能登から出てきたな私。」っていう心情にどうしてもなってしまうんですよ。やっぱり住民票を移さないと子供の保育園預けてもらえない、あるいは極端な話ゴミだって収集してもらえない、移さないのに住民サービス受けるとタダ乗りの懸念もある。心は能登にある、住民は本当は移したくないんだけれども、やむなく金沢に住民票を移すという方々がいらっしゃるので、ここはぜひ考えていただきたいなと思ってます。

かつて13年前福島で、彼らも広域避難しましたから。住民票を移さずとも避難先で行政サービスを受けられるという特例措置が当時はあったわけですけれども、13年前にここまでできたわけですから、今回13年も経ってるのでさらに一歩進んでですね、二つの地域に住民票を登録できるようなことを、簡単ではないのはわかりますけれども、やはり考えていくきっかけにしなきゃいけないんじゃないのかなというふうに思ってます。いろいろ省庁にも問い合わせて調べてるんですけど、現行法では難しい、厳しいの一点張りなんですけれども、いやいや、法律ってのは人のためにあるんでしょうと。

今、能登の被災者が置かれてる現状を考えたときに、やはりその現行法の見直しっていうのも、こういうことがあった現場から、その法律変えるような話が出てきてしかるべきだと思うんですよ。しかも東京の一極集中が全く是正されないこの国のあり方の中で、一極集中でありながらも地方が持続していける唯一の道が、関係人口を増やしていくこと、人口の概念を変えていくことです。税の問題や一票の問題になるから大変なことですけれども、そこに向かって一石はね、やっぱりこの石川から投じられないかというのは非常に感じているところなので、ぜひそこは踏み込むのが大変なのはよく理解してるつもりですけれども、考えていただけるとありがたいなというふうに思ってます。

(馳知事)

今国会でなんと国土交通省が二地域居住の法案を出してる。ここに実は総務省が関わっているのかいないのか。総務省がなぜ関わっていないんですかこれ。ものの考え方ですごい大事なことなんです。国交省が関わるってことは、これは国土政策でしょ。私はそれでいい、それは一つの理屈なんだけども、高橋さんさっきおっしゃったような住民登録の問題一つにしても、これは自治の問題でありますから、なんで総務省がここに全面的に関わってこないのかという問題意識を持ってですね、法案審査をぜひしていただきたいと私は思ってます。

その上で、そんなことここで文句言ってるんじゃなくて、二地域居住は能登にとっては、「1やむを得ない、2チャンス、そして、3持続可能性」。この理念を持って、私はぜひこの法案が出来上がったら、総務省の地方自治のプロの皆さんにも介入していただいていかないと、税の問題が今度次に絡んできますから。ここはまさしく国にお願いをしなければいけない課題ではありますが、今回能登の離れざるを得なかった若い方々の話を聞いてると、残念ながら仕事の問題や子供の教育の問題で、離れざるを得ないけれども、今現在だって、二地域居住なんですよ。これをむしろ政府としても、この法案が出てくるのであるならば、国土政策にさらに踏み込んだ地方自治の問題として取り組んでいただけたらなというのが私の思いでありましてですね、ここのところをやっぱりちょっと皆さんにも、これは国土政策なんだけれども地方自治の問題なんだと。

こういうふうに考えて、二地域居住を我々せざるを得なくなった、被災地から100キロ、150キロ離れて、2次避難者が7000人近くいるっていうのは、これ、今回初めてなんです。このことを踏まえて総務省とも協議をしながら、復興プランに向けての一つの大きな柱として、私は考えていきたいなというふうに思っているということもお伝えをして、皆さんに感謝を申し上げたいと思います。以上です。どうもありがとうございました。

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